VOL.4

 彼女は結局、道玄坂にあったラブホテルに入った。


 中世の古城をモチーフにしているとはいえ、どうみても某遊園地のできそこないにしか見えない。


 彼女はその前でタクシーを降り、肩をそびやかせて悪びれることなくホテルに入っていった。


『このまま待つんですかい?』


 ジョージはそういったが、俺は何も答えず、黙ってシナモンスティックを口に咥えた。


 それからかっきり1時間して、彼女は入った時と同じように、悪びれる様子も見せずに出てきた。


 1~2分ほど開けて、眼鏡をかけたスーツ姿の男性が辺りをキョロキョロ見回しながら忍び足でお出ましになった。


 俺はジョージに『ご苦労さん』といい、料金を渡して車を出る。

 

 男はそのままJR渋谷駅に向かって徒歩で移動した。


『失礼ですが』


 頃合いを見計らって俺は声をかけた。


 男はバネ仕掛けの人形のように跳ね上がり、後ろを振り返って俺を見る。

 

 俺は黙ってバッジとライセンスを提示し、私立探偵である旨を明かした。


 最初は渋っていたものの、彼は『清水ますみ』

 の客だったと白状をした。


 彼女の存在を知ったのは別に大したことではない。


 男性向けの週刊誌の風俗案内頁にあったホームページのアドレスに自宅のパソコンからアクセスして、それで客になっただけである。

 

 彼自身は都内の某印刷会社の営業マンをしている男性だそうだ。


 齢は31歳独身、勿論恋人もいない。


『あの・・・・僕は罪に問われるんでしょうか?』おどおどした口調で俺に聞き返す。


『ご心配なく、私はただの探偵に過ぎません。犯罪の捜査ではないのでご安心を、ただ彼女の事を詳しく教えてくれませんか?』



『もしもし、「グッドワイフ」さん?ええ、そうです。ホームページを見てかけたんですが・・・・初めてなもんで、勝手が分からなくて』


 俺はわざとおどおどした口調で受話器に向かって喋った。

 こういう時には出来るだけ初心な男を装うに限る。


(ええ、勿論よろしいですよ。今どちらに?え?巣鴨ですか?でしたらJR駅の東口を出て、直ぐのところに「ロン」って喫茶店がありますんで、そこでお待ちください。ええと、お名前は・・・・「ヤスダ」様ですね?お好みの女性は・・・・サナエさんですね?)


 電話の向こうの『男』は、安っぽい猫撫で声を出した。

 

 俺は言われた通り、東口を出たすぐの喫茶店『ロン』に入り、窓際に陣取ってコーヒーをオーダーする。


 10分は経ったろうか?


 店の中にあった黄色電話が鳴る。


 ウェイトレスがカウンターまで行き、受話器を取ると、


『「ヤスダ様」おられますか?』と店内に呼び掛けた。


 俺は黙って手を挙げ、受話器を受け取ると、さっきの猫撫で声が耳に届いた。


(お待たせしました。20分ほどお待ちください。サナエさん、ちょうど身体が空いたところなんで、直ぐに向かわせますから・・・・)


 







 

 

 

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