VOL.2
最初彼女が自分の身の回りの異変に気付いたのは、今から丁度5か月ほど前の事だったという。
ある日、箪笥の中を整理していると、見たこともない洋服や下着類が出てきた。どれもこれもブランド物で、派手なものばかりだった。
しかも、それだけじゃない。
引き出しからは買った覚えのないネックレス、指輪、ブレスレットなど、これも値段にすればかなり高価な宝飾品が山のようにある。
ドレッサーの引き出しからも、見たこともない化粧品が見つかった。
勿論それらすべてを買った領収書やレシートもあったが、まったく覚えがなかった。
彼女は普段から家にいる時でも殆ど和服で過ごしており、洋物は滅多に身に着けない。
にもかかわらずこのありさまだ。
幸い夫は今品物の買い付けにヨーロッパに出かけており留守。
薄気味悪くなった彼女は、見つけたものを全部処分した。
そんなものより、もっとおかしなものが出てきたのである。
彼女名義の預金通帳の残高が、明かに増えていた。
ますみは専業主婦である。
従って収入はないはずだ。
にもかかわらず毎月ほぼ20~30万円の単位で増えている。
それからもう一つ、ハンドバッグから見覚えのない黒い革製の手帳があり、そこには全く見ず知らずの人間、それも男性ばかりの名前があったのだ。
『本当に、何も覚えていないんですか?』俺の問いかけに、彼女はうつむいてただ首を振る。
プロの私立探偵をしている俺は、これでも人を見抜く目くらいは持っているつもりだ。
これまで俺を引っかけようとした人間と対面したことも一度や二度じゃない。
しかしこの女性・・・・清水ますみの顔には、そんなウソや偽りは全く見受けられないのだ。
『お願いします!このままでは私、どうにかなってしまいそうなんです。だから私の事を調べて頂けませんか?』
顔をあげ、ハンカチを膝の上でぎゅっと握りしめ、切実な表情で訴えかける。依頼人自ら、自分を『調べてくれ』などと、かつてなかったことだが、こうなるともう引き受けざるをえまい。
『いいでしょう。ただ、私も仕事ですからな。頂くものはきちんと頂きます。よろしいですか?』
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