戸惑い 4

 やぶ医者の協力を得てサエと博多に出かけることにした。親分にはサエの急病で付添すると申し入れをした。それで二人での初めての旅となった。新幹線で並んで弁当を食べてあかちゃんの話が尽きない。まるで自分で子供を産むようだ。ここ2日夜なべして肌着を縫ったりおしめを作ったり、フミコにはすでに子供を産むと打ち明けたらしく、昨晩にはミルクなどが運ばれてきた。

 博多に着くとタクシーに乗って警察ではなく病院に向かう。どうやら犯人は挙がって警察の手は離れたようだ。サエが何度も病院と話を続けている。病院に入ると手続きを済ませて思わず簡単にあかちゃんが籠に入れられて引き渡しを受ける。

「これが亡くなった人の鞄です。中は警察が調べてすべて戻されています。ここにイサムさんへの手紙も入れておきました」

 サエが手紙とカラオケバーでみんなで撮った写真を見ている。

「これはいつか娘が大きくなった時に渡します」

「いいのか?」

「本当の親を知らないのは不幸です。これから無縁墓地にお参りします」

 今日のサエは別人のようにしっかりしている。

「どうも尻にひかれそうだな」

「母になるんですから」

「父になるのか」

 まだ実感がわかない。

「今日はカオルさんが博多のホテルを取ってくれています」

「カオルにはもう話したのか?」

「お姉さんだから。喜んでくれていたわ。しばらく東京を離れられないと言ってたけど」








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