戸惑い 1

 この時間だとサエはまだ店にいるだろうと、ちいママと別れてタクシーに乗った。大阪の店からだと20分ほどで着く。念のためにガラスの眼鏡をかけた。予想通りまだサエの店は赤々と電気が灯っている。今晩は朝まで抱きたい気分だ。覗き込もうとしたらフミコの顔とぶつかる。もうこちらの店に来ているのだ。

「フミコ頼む閉めて帰って」

 サエが腕を抱えるように路地の中に引っ張って馴染らしいバーに入る。

「どうしたんだ?」

「電話でカラオケバーのマスターに会うって言ってたよね」

 鞄から丸まった新聞を出して見せる。妊婦が追ってきた横浜のやくざに刺されたとある。妊婦は8時間後死亡したが赤ん坊は無事だったと書いてある。

「殺されたのはカノン」

 彼女は大阪から逃げる最後の夜に私が抱いた。記憶が蘇ってきた。

「カノンはカラオケバーの名刺を出してサエに伝えてと最後に言ったそうよ。この子はイサムの子だと」

 こんなことってあるのだろうか。たった一度の射精で。

 出されたビールをサエに注ぐ。次の言葉が出てこない。目を見るが怒りも泣きもしていない。

「いろいろ考えたよ。カノンとイサムの子なら可愛いだろうなって。私とイサムじゃ何万回やっても子供は生まれない。イサムの子はほしい」

「サエはどうするんだ?」

「おばちゃんでいいかなって」

「駄目だ。それなら夫婦になるべきだ」

「腹違いの兄妹が夫婦はだめだよ。それに私は男よ」

「それももともと作り話だ」

「引き取る。そこからスタートよ」







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