鏡の向こう 11
翌朝目覚めると全裸のカオルが死んだように寝ている。ゆっくり唇を吸うと、
「今日は残念だけどこれだけ」
と言って食事を済ませると、女装にかかった。
「午後一番の便で大阪に行く。頭取の予想よりも検察が早く動いた」
「検察?」
「そうらしい。今朝任意で頭取が検察に呼ばれた。ITMファイナンスに対する不正貸付の容疑だそうよ」
「伊藤が吐いた?」
「いえ。伊藤はまだ監禁されているから無理ね。警察は修司の後釜の第2課長が殺されたとみている。それで家宅捜査をしたら押し入れの鞄の中から1000万の札束が出てきた。その封筒に伊藤とメモがあったようなの」
「詳しいな?」
「現場も情報網があるらしいわ」
「頭取は後任の課長には総理は紹介していないと言ってる。ここから何かが出てくることはないだろうと言っていたわ」
話しながらどんどん器用に化粧していく。
「私もいずれ呼ばれるそうよ」
「頭取は今修司が記憶を失っていることが天佑だと言ってた」
「消えてなくなればみんなにとっていいのだなあ」
「私はいつでも会いに行く。今日は念のためちいママと一緒に帰ってもらう。個室で彼女としてはだめよ。彼女他人の化粧は苦手だから」
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