新しい一歩 6

 オープンの日の昼にサエの店を覗いてみた。狭い玄関の入り口に親分の花輪が出ていた。私はせめてもと思い観葉植物の鉢を買ってきた。サエは若いお人形のような服に身を固めた女性2人と話している。客が全く入っていなければどうしようと思っていたがほっとして店の中を見渡す。奥に新しく買ったミシンが置いてあって作業場を兼ねている。

「お客さんだから行くよ」

「違うの。前に言っていた兄貴よ」

「へえ、紹介してよ」

と笑いながら出て行く。

「飯は?」

「一人だからここで食べる。コーヒー入れるよ」

 そうしているとおしろいを塗った若い男衆が風呂敷を抱えて入ってくる。 

「サエちゃんおめでとう!今日は修繕が3着に、派手な着流しの新調を頼む。座長の好みで頼む」

「分かってるわ」

 なぜか別人のようである。男衆が封筒を出して渡す。サエはそのお金を数えてそばの空き缶に入れる。客が出て行ったので声をかける。

「レジは置かないのか?」

「大した出入りがないからこれで十分。今のは修繕だけで23000円。でも芝居小屋の得意先が4軒あるのは助かるわ」

 サンドイッチを食べているともう客が入ってくる。一度カラオケバーで見た顔だ。美人だがどこか男の匂いがする。そのまま後ろのカーテンの中の入る。仮縫いを知るようだ。

 私はコーヒーを開けるとそうそう出る。自分もしっかり働かなければ捨てられるという妙な気持ちになっている。

 









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る