過去に触れる 6

 集金から戻ると、事務所の前にホワイトのベンツが留まっている。事務所を覗くと小柄だが幅の広い男が親分と話している。

「イサムに歌を付き合ってくれというてはる。これから出かけてくれ」

 車に乗せられると男が運転をする。

「もう15年も前に親分ところでお世話になっていたことがあるんや」

 話すと愛嬌がある。

「どこに行くんですか?」

「うちの親分の隠れ家のスナックや」

 右側に地上げ現場が見えたと思うと、細いネオン街に入っていく。その中のレジャービルの前に留めると、入口に黒づくめの男が立っていて中に案内する。ドアを押すと、あの優男が手を上げてカウンター席から呼ぶ。カウンターの中に和服のママが待っていたように寿司の皿を並べる。

「前は世話になった。取引は無事に終わった」

「いえ、あれはうちの親分の裁量です」

「その礼は金利出させてもろた。若いからビールがええやろ」

「はいどうぞ」

とママがビールの小瓶を抜いてグラスに注いでくてる。

「どうや。うちの金融会社で社長やってみいへんか?」

「いえ、親分に拾われましたので」

「そうかそうか」

 客は誰も入ってこない。

「このスナックの話ステーキハウスのママにしたらあかんで。殴り込んで来よるからのう」











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