過去に触れる 5

 夜にボンの親父のいる本店に行く。8時までに30分ほどある。親父が常連と話している後ろをボンが厨房を掃除している。大瓶を頼んで折り曲げた週刊誌に目をやる。

「イサムか?」

 背中を叩かれて振り向く。

「やぶの先生ですやん」

 やぶ医者が白衣以外を着ているのを見たのは初めてだ。

「俺だって飲むさ。3階には風呂がないから3日に一度通天閣の銭湯の帰りにここによる。部長になったんてな?」

「サエが話していましたか?」

 どうも半月に2度ほどやぶ医者の所に来ているらしい。

「あの女毎日隣の兄ちゃんに頼んで新聞を買ってもらって読んでいる」

「刺した男が捕まったか気になるんでしょう」

「ここの奴はみんな色々ある」

 もうやぶ医者の背中が暖簾の向こうに消えている。いつの間にか親父の姿もなくボンが前に立っている。鞄から先ほどの写真を出して黙ってカウンターに置く。

「あの日のイサムや」

「やくざが持っている回っている顔写真や」

「ひげは剃れないね」

「今日はサエには会った?」

「モーニング食べに来てた」

「ボンはサエのことどう?」

「何度も振られている。友達以上恋人以下だって」

 はにかんでいる。







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