過去に触れる 7
メロディーに合わせて歌が唄えている。初めは用心深く歌詞を追っているが、自然に拳も入ってくる。
「記憶を失っても芸は忘れんもんや」
「歌い込んではるわ。親分頑張らんと」
ママを挟んで5曲ずつ歌い終わった。ドアがそっと開いて先ほどの運転手の顔が覗く。優男の親分の目が光る。
「あのな、どこかで見たことがあると思っているんやが」
ママがマイクをしまっている。私は思い切ってあの写真を出した。親分は指で抓んで、
「この顔やがのう。ITMファイナンスのお披露目の会場で見た顔や」
「伊藤の部下でしたか?」
「違うのう。S銀行の頭取の傍に立っていた。銀行員という風やった」
「ITMファイナンスとは親分は取引されて?」
「いや、伊藤が嫌いや。彼奴には信義がない。あれはなあ、お世話になっていた初代のITMファイナンスの社長を売ったんや。それで今の社長に代わって伊藤が役員に入った。伊藤も覚えてないのか?」
「見たことのあるような?」
ちらりと腕時計を見る。
「信用できる金融ブローカーを紹介したる」
と言って金融ブローカーと自分の名刺を出して裏にサインをする。
「ちょっと一緒に10分ほど乗ってくれ、後で好きなところに送るように言うからな」
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