第10話 黒鞄 2
「中は見ていないよ」
サエが押し入れから新聞紙に包んだ黒鞄を出してくる。ずいぶん使い込んだ鞄で腹に巻きつけるようになっている。確かに見覚えがある。リヤカーで運ばれる時も無意識にこの黒鞄を抱えていた。ただこの中に何が入っているのかは覚えていない。
「開けて見てよ」
最初に掴み出したのは封に巻かれた札束が2冊と1万円札が7枚。
「強盗したのか?」
「あなたのかもしれないよ」
どうもお金だけなようである。
「もう少し調べてみたら」
とサエが鞄の中に手を入れて探る。
「何かある!鍵ね。マンションの部屋の鍵とか?」
「少しサイズが違うようだな」
「免許書とかそんなものが入ってるかと思った」
「取りあえずこの金で借りている金を支払っておくよ」
「だめ!」
口をとがらせて言う。
「盗んだお金なら返さないといけないし。返されると縁が切れるようで嫌」
「妙なこと言うな」
「初めて自分のものができたのに。10歳から今まで一人ぽっちで寂しかった。こんなこと話させないでよ」
大きな瞳から涙があふれてくる。
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