第7話 始まり 7

 今日は朝からサエは出かけている。どこに行くとも言っていない。彼女から貰ったこの町の地図を持って朝から歩き回る。サエのマンションの裏側には飛田の色町がある。声をかけられながら隅々まで歩くとカラーマジックを塗りつぶす。そこから通りに出て商店街の中を歩く。この先にやぶ医者の病院がある。そこに印を入れる。

「今日は一人?」

 背中から声がかかる。リヤカーを押しているボンだ。

「昼一緒にしてくれる?」

「ならついてきて」

 あの女将の店にビール箱を運び込んでカウンターに掛ける。

 女将が黙って私だけにビールを抜いてくれる。

「サエについて聞きたい」

「そんなに知ってることはないよ。話したがらない」

「10歳の時にボンが拾ったんだな?」

「そうや。あのやぶ医者の所に運んだ。凄く病院に行くのを嫌がった。どうも風邪だけではなかったようだった。しばらく歩けないであそこで寝ていた」

「やぶ医者から何か聞いた?」

「いや口が堅い」

「サエは幾つだ?」

「それも言わない。ただ年下だと思う」

「では私は?」

「30歳少し上かな?」

 女将がカウンターから魚の煮つけを渡しながら言う。

「でも彼女よく同じ部屋に泊めたね」

「イサムという名をくれた」

「恋人という歳じゃないから、きっと父親の名前かもね。これは女の感!」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る