第5話 始まり 5

「ここがうちの部屋や」

 ずいぶん通りを奥に入ってゆく。

「泊めてくれるのか?」

「ああ、これも行きがかりや。蒲団は旅館からもろて来た。辛抱しいや」

 卓袱台を挟んで蒲団が二つ並んでいる。

「言うとくけど、夜中に乗っかってくるようなまねしたら追い出すからね。それとトイレと風呂に入る時は絶対ノックすること」

 姉に言われたような妙な気持ちだ。どう見てもボンより若く見える。

「金はないよ」

「分かってる。ちゃんと控えてる。そのうちに仕事は私が見つけてきてやる。当分はこの瓶に入っている金を使っていいよ」

と言いながら鏡を見ながら化粧を始める。

 私はどんどん綺麗になって行く少女に見とれる。これなら20歳には見える。

「どこに勤めている?」

「カラオケバー。客と寝る奴もいるけど、うちを同じ目でみやんで。そうそう夕方の6時から11時までそこにいる。休みは交代で1週間に一度。ちょっとおっちゃんしばらく後ろ向いてえな」

 どうもここで着替えているようだ。

「おっちゃんと言うのもパッとしないな。こちらもお婆ん臭くなるわ。イサムと言うのはどうや?」

「名前も覚えてないからそれでいいけど。イサムって思いつき?」

「違うわ。でももっと親しくなったら話す」

 そう言って私の体を正面に戻す。

「別人だなあ」

 格子模様のオレンジのスカートに白い秋物のセーター。思ったより胸が出ている。ハンドバックから部屋の鍵を卓袱台に置く。








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