明けて欲しくなかった、日曜日

明けて、日曜日。

正直、明けて欲しくなかった、日曜日。

午後にはまた、バイトのシフトが入ってる。

宇木さんと、きっとまた、一緒。

謝らなきゃ。

昨日はすみませんでしたって。

謝らなきゃ。

きっと、話したり笑ったり、出来なくなっちゃう……。


「お休み? ですか?」

「そう。宇木さんの身内に、不幸があったとかで」

「……そうですか……」

普段より気負って、普段よりも早く出勤したあたしに、真奈美先輩が、宇木さんのお休みを告げた。

気負ってきた分、脱力してしまった。

バックヤードの壁際に置いてある、小さなソファに座り込む。

半分、ほっとしてしまった自分に、腹も立った。

昨日の宇木さんには、何の落ち度もなかったのだから。

……だから、謝りたかったのに。

「昨日、カラオケ行ったんでしょ?」

真奈美先輩が、店の制服に着替えながら、しょげているあたしに、声をかけてくれる。

その、カラオケに行けなかったことで、落ち込んでるんですってば。

「……いえ」

「え?! あんな元気に返事してたのに?」

「……」

「……何か、あったの?」

首を傾げる真奈美先輩に、あたしはつい、落ち込んだ顔を見せてしまった。

「言えることなら聞くよ? 今のうちだし」

まだ就業までに、ちょっとだけ時間があるのを、腕時計で確認して、真奈美先輩は、あたしをバックヤードの奥の、壁際に引っ張った。

「昨日、行けなかったんです……あたし、あたし……テンパっちゃって」

がっくりと肩を落とすと、真奈美先輩は、片眉をぴょんと跳ね上げた。

「テンパった? え? ……つまり、えっと……そういうこと?」

一瞬声を上げて、それから急に声のトーンを落とした先輩に、心底感謝した。

一応、気を使ってくれてる。

ああ、ありがとう、先輩……!

「うう……」

はっきり言うのも何だか気が引けて、もごもごと返事をする。

認めるのが恥ずかしくて、穴があったら入りたいってこういうことだ、と、思った。

「そっかぁ」

先輩は、壁に寄り掛かって、天井の電灯を見上げた。

手に持っていたエプロンの紐を、伸ばしたり縮めたりしている。

あたしも、気まずくて恥ずかしくて、エプロンの端を摘まんだり、離したりしていた。

「正直な話ね?」

「はい」

上を見上げたまま、先輩が話し出した。

「私たちから見た宇木さんって、すっごい大人じゃない?」

「……はい」

「正直、難しいかもって、思う」

あたしのエプロンの紐が、リボンに結ばれたり、ほどかれたりし始めた。

「遠藤さんが宇木さんのこと、好きなのかなーって、見てて思ってたけど……そっか、自覚したの、昨日だったのか」

「……はい」

あたしは、下を向いた。

何だか、すっごく胸が苦しいと共に、すっごく悲しくもなってきた。

鼻の奥が、つんとしてくる。

先輩は、そんなあたしの肩を、優しく叩いてくれた。

「泣くなよー。今始まったばかりじゃん。ダメかもしれないけど、ダメって思ったら本当にダメになっちゃうよ」

希望を持て、と。

改めてぽんぽんと肩を叩いて、先輩は腕時計を見た。

「おっと、タイムアップだよ。真面目に、きちんと仕事しよう。私たちは高校生だけど、お客さんには関係ないからね」

「はい」

ずずっと、垂れそうになる鼻をすすって、あたしも先輩の後について、レジに向かった。

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