人工太陽
我輩たちの炬燵コロニーは、コロニー上部に設置された人工太陽のエネルギーによって動いている。炬燵コロニーは核融合のエネルギーよって動き、猫人の亡骸はその人工太陽へと葬られる。人工太陽の中に投下された亡骸は、化学反応を起こして太陽の新たな輝きとなるのだ。
我ら猫人は、亡き同胞たちによって生かされている。過去もこれからもそれは変わらない。
ただ、我々は繰り返す。日々の営みを、淡々と淡々と。
イエネコがいたことを知らせるためだけに。
「ふと、我輩は思う。それだけのために人間たちは、我輩たち猫人を生み出したのだろうか?」
コロニー上部に設置された通路に我輩は立っている。我輩は隣のユリに話しかけていた。炬燵コロニーには吹き抜けのロビーに設置された螺旋階段がいくつもある。本棚になっている壁に面した螺旋階段の踊り場は我ら猫人の巣となっており、それらはすべて上部で繋がっている。
通路で繋がっった螺旋階段から床でニャンモナイトになっていた猫人たちがあがってくる。にゃあにゃあと悲しげに鳴きながら、彼らは円形の通路に集っていった。
通路の上空には巨大なフラスコが括りつけられている。通路の中心に位置するフラスコの中には、眩い光を放つ光球があった。
人工太陽だ。
そのフラスコの上部が開く。蒼く輝く球体がことさら光を増して、ぽんっとそのフラスコの中に投げ入れられたものがあった。
黒い猫人。225号の前個体だ。眼を瞑ったその猫人は、蒼い球体に触れるとぼんっと音をたてて燃える。225号の前個体は、燃えながら人工太陽と1つになり消えていった。
にゃー、にゃー、にゃーと猫人たちが鳴く。
我輩たちは鳴きながら同胞の死を見送る。彼女は人工太陽と1つとなり、我輩たちを照らし続けるのだ。
「これが、炬燵コロニーの葬儀……」
ユリが呟く。横にいるユリを見あげると、彼女はじっと人工太陽を見あげていた。彼女の眼は人工太陽の光を受けて、蒼く光る。
氷河のように蒼い彼女の眼は、ゆらゆらと揺らめいていた。
人は悲しくなると涙という水を流したという。
人であるユリは、泣いているのだろうか?
猫人は涙を流さない。でも、人である彼女は泣いている。225号の死を悼んで。
「あなたも、悲しい?」
人工太陽を眺めながら、彼女は問う。
「悲しいよ。だから我輩たちは鳴くし、今もこれからも生き続けなければならないのだ。我らの同胞たちのために」
「同胞たちのためか……」
金の眼を伏せて、ユリは言葉を続ける。彼女は我輩へと顔を向けてきた。
「あなたにね、見せたいものがあるの。そこにすべての答えがあるわ」
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