第6話 小倉は新幹線も止まるばい

 私はやっとパジャマから着替えることに成功し、北九州の女性が着ている物と同じ、民族衣装を身に付けることができた。ベトナムで着られるアオザイのようなデザインで、体のラインが出てしまうからちょっと恥ずかしい。


 腕を上げたら、横腹もチラチラするし、蓮くんとまともに目が合わせられないよ!


 一方、蓮くんも、モヒカンと同じようなワイルドな服へと着替えた。肩周りには、いかにも血を欲してそうな、トゲトゲがいっぱいついている。


「もうすぐ小倉こくら駅着くけんね。」


 小倉駅。私達の目的の地。


 蒸気機関車に乗りさえすれば、私は北九州を脱出できる。それは即ち、蓮くんとのお別れも意味しているけど。


 複雑な、相反する気持ちを背負い、足が少し重たくなる。


 しかし、間も無く小倉駅らしき物が見えて来た。


 モヒカンが多い。


 北九州ってこんなに人がいたんだ。


 私は、怪しまれないよう、あまりキョロキョロせずに、蓮くんの後を歩く。この後ろ姿を見れるのも、もうすぐで終わりかな。


 そして、私達はついに、小倉駅へと到着した。


「北九州から脱出するには、貨物線に乗る込むしかないばい。北九州で製造したロケットランチャーをヤマグチ方面に輸出しよるはずやけん。」


 え〜〜〜〜、北九州ってロケットランチャー作ってるの!?そう言えばニュースで見たな…民家からロケットランチャーが見つかったって。


「とりあえず、シモノセキ行きの貨物列車を探そう。小倉こくらから門司もじ駅を経由して、シモノセキに列車は行くけん。やけ、取り敢えず切符を買って、ホームに入るばい!」


 蓮くんは、粗方、説明を済ませると、窓口で適当な切符を買ってくれた。もちろん、券売機なんて洒落た物は北九州にはないみたい。


「ありがとう、蓮くん、あと少しで帰れそう!」


 そう、あと少しで。


「最後まで一緒におるけんな!」


 蓮くんは、私の背中をポンと叩いてくれた。


 ホームに入ってからは、とにかく怪しまれないことに徹底した。普通の乗客のフリをして、下関へ向かいそうな貨物列車を探す。


「無いな…」


 5分か10分ぐらい経ったその時、奥の方で、とある貨物列車が目に入った。


 門司もじって書いてある!


 取り敢えずあれに乗れば下関にも行ってくれるはず!


 だけど、運が悪く貨物列車が走り出した!


「蓮くん!あ、あれよ!あれに乗れば!」


「走ったらまだ間に合う!あかり!」


 蓮くんは、既に動き始めた貨物列車に向かって走り出した。私もその後を全力で追う。


 いける!


 間に合う!


 蓮くんは、助走を付けて、貨物列車に飛び乗った。


あかり…!」


 蓮くんは精一杯私に手を伸ばす。私は無我夢中で蓮くんの手を握ってやった。


「はぁ…はぁ…」


 息が切れる私。北九州に来てから、かなり走り込んだが、これまでで一番必死に走ったかもしれない。


「蓮くん…ありがとう…私、帰れる…」


 蓮くんも息が切れているようで、肩で息をしながらニッコリと笑ってくれた。


「そう言えば…蓮くんは、どこで降りるの?」


 既に貨物列車はかなりのスピードで走り出している。


「どっか途中で止まってくれたらいいんやけどね、もし止まらんかったら一か八かで飛び降りるばい!」


「えっ、飛び降りるっていくらなんでも無茶でしょ!?下手したら死んじゃうよ!?」


 蓮くんの返答に戸惑う私。


 だけど、その後に返って来た言葉。


 私は更に衝撃を受けた。


「死んでもいいばい。俺は、あかりが北九州脱出できたら、どうせ死ぬ運命なんやけ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る