第7話 北九州にまた来るばい

 死ぬ運命?


 私にはその意味が本当に理解ができなかった。


れんくん?どういうこと…?」


 突然の展開に、先程、走って息が切れていたことすら忘れてしまっていた。蓮くんは、ボーッと一点をただ見つめている。何もないところを。


 そして、少しの間を取って、やっと蓮くんが真相を語ってくれた。


 この北九州で起きている真実を。


「ほんとはあかりには黙っておくつもりやったけどね。聖人式あるやん?あれね、生贄を必ず毎年捧げんと、怒った宇宙人が北九州の人間と文明を滅亡させるんちゃね。」


 しかし、それを聞いた私は、驚くほど冷静だった。今更、話の中に宇宙人だか、ナメック星人だか知らないが、そんな者たちが出てこようが、動揺はしない。


 現に私は宇宙人によって、召喚されたんでしょ?


 明らかに私の身には、普通でないことばかり起きたんだし、むしろそっちの方が納得できる。


「え…じゃあ私が北九州から出たら、北九州は滅んじゃうの?」


「ああ…!」


 蓮くんは、自らの運命をもう諦めているのかな。死ぬことに対しては本当に恐怖がないようだった。


「そして、死んだ人間は、聖人式にまつわるルール以外の記憶を消されて、再びゼロから文明をスタートさせないけんのちゃね。それに俺たちは、歳を取らんみたいやけ、北九州の地に宇宙人がやって来た3000年前から、永遠に同じようなことを繰り返して来たんちゃ。この姿のままね。」


 だから、北九州は文明がここまで遅れていたのか。何度も文明を築いては壊されて、の繰り返し。


 成人式は毎年成功するとも限らないし、せっかく発達していく文明を壊されたくなかったモヒカンみたいな人達は、だから必死で、その年の生贄を探していたのか。


「でも、テレビで見た北九州は本当にこんな世紀末みたいな所じゃなかったよ!」


 そう、私はそれだけが今だに謎だった。


「これまでの生贄に選ばれた人も言っとったけど、恐らく、外の人間から見た北九州は、なんちゃね。トウキョウみたいな都市と同様に、栄えた姿を映し出しとるだけみたいっちゃ。」


 じゃあ、私が…いや、世界中の誰もが知らない所で、北九州の人達は、己の存在を主張するために宇宙人と戦っていたのか。


「蓮くん!私帰れないよ!」


 思わず本音が出てしまう。ずっと戦っている蓮くんを私は一人にできない。それに、蓮くんから私の記憶がなくなることも嫌だ!


 それなら私が生贄になって死んだ方がマシだ。


あかり、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、やっぱ他の所から来た人間が巻き込まれるのは嫌やけん。」


「嫌だ!それなら一緒に宇宙人と戦おう!こんな残酷な成人式も終わらせよう…!」


 私は、涙した。そんなこと言っても、どうせ叶わないことも分かっている。けど、せめて、もう少し私はこの人と一緒にいたい。


 記憶の中にいたい。


 私は、蓮くんのことを本当に好きになってしまっていた。


「もうすぐシモノセキの方に行くはずやけん、俺はこの辺で飛び降りるばい。心配せんでも俺はまた、リセットされるはずやけん、また最初から俺は、その時やるべきことをやっていく。」


 待って!


 まだ、何も蓮くんに伝えられてないよ!


 行かないで!


「明、俺はお前を助けられて、でたん嬉しいけん。」


 私は涙が溢れて止まらなくなった。


「またいつかさ、仮想の北九州でいいけん、遊びに来てばい!俺はそこにおるかどうかも分からけど、待っとるけん!」


 蓮くんは、貨物列車の上で静かに立ち上がった。


 本当に行っちゃうんだ。


 もう少しだけでいいから。


 声ももっと聞きたかったし。


 その優しい手に触れたかった。


「じゃあな!明!」


 蓮くんは、これまでで一番のニッコリした可愛い笑顔を見せた。


 そして、躊躇いもなく、蓮くんは飛び降りてしまった。胸が一気に苦しくなった。


 だけど、これだけは言わないと!


「蓮くん…!必ず…私、また北九州来るけん…!絶対、待っとくんば〜〜〜〜い!!私!!蓮くんのこと大好きやけん!!」


 私が叫び切ったのと同時に、目の前が真っ白な光に包まれた。


 何だか急に眠たくなった。


 ※ ※ ※ ※ ※


『え〜、次は〜、下関〜、下関〜』


 私は、とても長い夢から目覚めたようだった。それに、なんか凄い目が腫れているみたいな感覚がする。


 え、てか、なんでこんな所に私いるの!?


 ここ電車!?


 下関ってどの辺だっけ!?


 しかも、私が着ている民族衣装みたいなのは何!?


 私は何が何だか分からなかった。


 確か、昨日、家のお布団で寝たはずなのに!


 いけない、早く家に帰らないと大変だよ!


 私は命がけで東京の自宅まで帰った。

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