第5話 デパートっち言ったら井筒屋ばい

「これっち、あかりに似とらん?」


小倉こくらの街へ入った私達は、できる限り人気ひとけの無さそうな所に来たのだが、とある看板の前で足を止めた。


「あれ、こっちこそれんくんに似てない?」


指名手配…看板にはそう書かれている。そして、そこに貼られている二枚の似顔絵。


「いや、これ私じゃないと思うな…!」


どう見ても私だ〜〜!!!!パジャマの模様が一致してま〜〜す!!!!


「いやいや、これっち絶対、あかりの似顔絵やん!」


蓮くん、そんなに決めつけないで!私だって否定したいのに!!


そして、さらに私達に追い打ちをかける。


「ひゃっほ〜〜〜〜、やっと仕事終わったばい!!アニキ、疲れたけん『資さんうどん』行きましょうや〜〜!!」


ヤバイ!!仕事終わりのモヒカン集団に遭遇してしまった。


「おっ、アニキィ〜〜!指名手配の看板があるばい!!何っ、捕まえた物には『鉄なべぎょうざ』一年分…ひゃっほ〜〜!!」


「バカヤロウ!!そんなんすぐ見つかるもんやないけん!!」


「アッ、アニキィ〜〜!!?」


「うるさいっちゃ!!?どうした!?」


「ここに、いますばい!!」


「なにぃ〜〜!?不発弾を掘り起こせ〜〜〜〜!!」


慌てて看板の裏に隠れた私達は、一瞬でモヒカンに見つかった。いつものように逃げ出す私達。


一体、このパターンは何回目なの!??

いい加減しつこい!!


とにかく、逃げることには慣れてきた私達は、あっさりとモヒカンを撒いて、『井筒屋いづつや』と言う建物内に逃げ込んだ。


そこには、北九州市民が着ている民族衣装等が多く売られていた。


「やっぱ、あかりのパジャマが目立つけんさ、着替えようや。」


「でも、どうやって!?服は!?」


「俺がバレないように盗ってくるけん、ここで待っとき!」


蓮くんは、井筒屋いづつやにある黒魔術屋さんの隣の物置き部屋に、上手に隠してくれた。店主はお年寄りで、ぐっすり昼寝をしていた。バレることは多分ない!


私の姿がすっかり見えなくなったことを確認した蓮くんは、笑顔で私にサインを送って、走り去って行った。久しぶりの一人だな。


北九州に来てから、たまたま出会った蓮くん。


急に隣からいなくなると、なんか胸が苦しくなってしまう。


誰かに見つかって、生贄にされて死んでしまうのは、勿論嫌だし、怖い。


だけど、私は今、そんなことよりも北九州から脱出した後のことを考えている。


もう、その時は、蓮くんとはお別れなのかな?


もう会えないのかな?


私は、この数日で、蓮くんのことを好きになってしまっていた。


蓮くんはどう思っているんだろうか?


心から私が無事に、北九州から脱出できることを後押ししてくれるのは本当に嬉しい。


でも私の心のどこかでは、蓮くんにも、私と同じような気持ちが少しでもあってほしいなって考えてしまっていた。


物置きの隅っこで体操座りをしている私。


この後の展開をあれやこれやと色々考えても気分は沈むばかりだ。


あー、私ってこれまで本気で恋もしたことなかったんだな。


更には、これまで生きて来た17年、あんなことやこんなことを振り返って行ってたら、目の辺りが段々と熱くなり、とうとう涙が頬を伝ってきた。


こんなに怖い想いをする場所でも、今が一番幸せに感じてしまう。


北九州に召喚されてしまったばかりに…こんなに苦しい気持ちになるなんて。


その時。


物置きの扉がゆっくりと開いた。蓮くんが帰って来た。


あかり?泣いとったと?服、盗って来たけん着替えり?もうすぐ、家帰れるけ泣かんでいいんばい!」


バカ…


私の手を掴み、ニッコリと笑ってくれる蓮くん。もう我慢ができなかった。


私は、外に漏れない最大の音量で、声を上げて泣いた。

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