第2話 シロヤのパンは美味いばい

 私に声をかけてくれた少年の名前は、福岡ふくおか れん。北九州生まれの北九州育ちらしい。年齢は私と同じ17歳。


 少年は、アラジンのような格好をしている。お腹出しているけど細いな、羨ましい。てか、さっきのモヒカンもそうだけどさ、もう、北九州どころか、格好が日本じゃないって!


 今、私と蓮くんは、黒崎くろさきと言う街に到着したところだ。街と言っても華やかなものではなく、岩で作られたガッチガチの家が並んでいるだけなんだけどね。なんだか廃れている。


「あっ…あの!ちょっと聞いていい!」


「どうした?何でも聞いて?」


 私はどうしても聞きたいことがあった!


「本当にここは北九州なの!?テレビで観たのと、ぜんぜん違うんですけど!てか、今2018年であってる!?」


 いくら何でもこんな世紀末みたいなのあり得ない!せめて、何百年か後の北九州ですって設定にしてよね!


「ここは正真正銘、2018年の北九州ばい。多分、テレビは北九州の印象を良くする為に本当の姿を映してないんちゃね。やないと、観光客も減るけん。」


 いやー、嘘だ!そんなバカな!毎年、成人式の様子がテレビで撮り上げられてるじゃない!印象悪くしてるじゃない!?ツイッターも大盛り上がりじゃん!?成人式の様子も確かに世紀末だけど、普通の人も1パーセントぐらいはいたよね?あと、さっきから気になるけど、何で皆さん、移動手段がお馬さんなんでしょう!?


 あー、ますます混乱して来たよ!


 そもそも!


 私はあっさり受け入れてしまったけど、何で北九州にワープして来たわけ!?そこから異次元じゃん!


 それと、さらにさらにもう一つ気になることが私にはあった。


「さっき蓮くんが言っていた、成人式の生贄って何?もしかして!私、殺されるの!?」


「そうばい!」


 あっさり返答されちゃったよ。


「毎年、北九州の聖人式では、他の地方から召喚した人間を生贄にするって言う儀式が行われるんよ。その生贄に選ばれたのが今年は…明みたいなんちゃね。」


 私はどうやら日本を代表してとんでもないことに巻き込まれたようだ。北九州の成人式って毎年犠牲者が出ていたのか。


「明…僕がなんとか君を北九州から脱出させるけん!心配せんでいいばい!この国道3号線を歩いて小倉こくらまで向かって、下関行きの蒸気機関車にこっそり乗り込めば成功ばい!」


 国道3号線ね…。私には、広大に広がる荒野しか見えないけどね。これが国道なのかよ。


「じゃ…じゃあ!黒崎駅から乗ればいいじゃない!さっき蒸気機関車みたいなのあっちで見かけたよ!」


「危険過ぎるやん!そんな目立つ格好で!それに小倉までは乗客が多い。バレるリスクも高まるけん、小倉までは徒歩で行った方がいいんちゃ!」


 そうか、私はパジャマ姿だった。


「私、生きて東京に帰りたいよ!」


「ああ、任せとけん!」


 なんて頼もしいんだ。蓮の存在は、この異世界…いや、この北九州においての唯一の救いだと思った。


 その時…


 ギュルル…


 私のお腹がなった。


「ハハハッ、今からたくさん歩くけん、先ずは腹ごしらえせんとね。黒崎にシロヤのパンっていう有名なパン屋があるけん、そこに寄ろう。オムレット、でたん美味しいばい!」


 蓮に連れられ、シロヤのパンへと向かう。


 私はそこで食べた、オムレット。


 一生忘れない味となった。


 蓮くん、本当にありがとう。

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