第3話 踏鞴

 幼い頃の記憶だが、私が生まれてすぐの頃は近所のスーパーの隣に探偵事務所があった。


 その事務所の所長でもある探偵はとても評判が良く、地元警察では頻繁に、日本中、世界中でも信頼されて捜査を手伝っていたそうだ。確か、踏鞴たたらなんて呼ばれたものだった。


 何がそう呼ばせたのかといえば、踏鞴の空気の勢いにように、アリバイを吹き飛ばすからだ。明晰な頭脳を持つ所長たたらに縋る警察たちは次第に怠けていった。探偵事務所も退去せざるを得なかった。でも、所長たたらただ1人に関しては、それを強く拒んだが、いつのまにか探偵事務所は無くなっていた。


 懐古趣味のある私にとって耳の痛い話でもあったため、深く心に刻まれた。



 こんなことを考えている間にあっという間に卒業してから3週間が経った。今日で春休みは終わり。明日が入学式だ。


 普通に地元の中学に入学する友達とは、そう会わなくなるかもしれない。実際、これから通う中学は、寮住まいの人もいる。私は今のところ家から通うが、中高一貫で6年間も先があれば何が起こるかわからない。今のうちに友達には会っておきたい。スマホに埃を被らせている私は、そう思えた。


 一方で、地元中学に通う友達はもう入学式が終わっている。小学校と同日に始まる。少し早く中学生気分を味わった友達は、メールをくれたが、電話ほどの煩さがないと、私はスマホを手に取らない。


 大体、これから新学期というのになんら変わりなく過ごしている。なんの準備もせずに、いつも通り過ごしただけの春休みだった。



 こんなことが私の人生を変えるだなんて、そう思ってはいなかった。

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虫の知らせは、祟りの予告。 長月なのか @kyo_yuhara

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