第2話 遺失物
私には、8歳離れた兄がいる。兄には心を開けて、絵日記のことも知っている。それならば、メモの内容もきっと知っている。
そんな兄に直ぐに会えるのなら、その絵日記を取り戻すのなんて容易いんだろう。
でも、もう兄には会えないと思う。所詮自論だがこんな理由があった。
『私が6歳の頃に兄は家出をしていた。その時にこんな交通事故のニュースがあった。
この事故は悲惨でどんな捜査をしても、血液は散乱し、その遺体が原型をとどめておらず、屍は重なり合い、次第に溶け合い、その結果、誰一人と被害者、被疑者共に身元を特定できず前代未聞の何とも残虐的な終いを迎えていたのだ。
こんなことがあるのだろうかと不思議に思って、大きな恐怖心を覚え、幼い私の脳裏にも焼きついた報道だった。
もう一つ、兄が巻き込まれたのではないかと言うことがある。それは、“祟り”の流行りだ。
それは6年前、テレビやラジオでも日常茶飯事に耳にする言葉となり、次第にニュースでも取り上げられるほど、実際に起こるものとなっていた。
この時、兄は不貞腐れたように人格を変えては、身の回りの者を傷付けていた。私にはまだ深くは分からなかったが、確かに同級生等が兄を避けるような周りからの視線は痛々しいほどに感じられ、その視線を送るものたちの顔に貼られた赤い絆創膏が何なのかも、多少なりとも悟ることができた。
これが原因だ。この所為で兄は神からの災いを受けた。だから姿を消したんだ。』
まあ、当然私の話を大人がみんな信じているのなら、兄が何処で失踪したのかくらい今の時代すぐにでも分かることだろう。
でもそんな簡単に信じられるようなことではないと思う。何故なら私は所詮ただの小学生と中学生の間の年頃。それに、兄がそもそも家出をしてそんな遠くまで行っていたのだろうか。それすらもわからない。ただ単に私が兄を見つけたいが為だけに、当てずっぽうの嘘を真実と思い込んで勝手に謳っているだけとも言える。寧ろその方が無難だ。
もう一方の意見なんて、正に信じがたい。祟りだなんて本当に起こるものなのか。最近また祟りの真偽が問われ始めているものだし。
先ほどの自論に戻れば、前者が事実だったとして、途轍も無い憤りを感じることだろう。後者だったとして、兄はまだ生きていることだろう。
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