第1話 絵日記
小学校卒業まで残すところ10日となった。最後に過ごしたクラスも、もう解散だ。
そんな中、クラスのうち1人が先生に寄せ書きを書こうと色紙に貼るための正方形の子どもの拳ほどの紙を渡してきた。その紙にやけに見覚えがあった。
「(どこかのお店で売っていたのかな?)」
解決するのが好きな私は、謎が少し解けそうというところに胸があの独特のざわざわとした感覚に見舞われた。
さらに月日は流されていた。遂に明日が卒業。卒業式の予行練習も終わり、そろそろ実感も湧いてくる。
「(いよいよ、卒業だ。)」
卒業式本番に向けて下級生たちがお花紙や紅白幕を貼り、準備してくれている。式に参加する在校生達は、私達に渡す生の花をブローチの留め具に挟んで準備をしていた。
私は、明日着る袴を自分の部屋に置いてすぐ着られるようにした。
そして迎えた当日の朝、髪を梳かして袴を着た。そして往路に着くと歩きにくい靴だが、足取りは軽かった。
卒業式に参加する前は、いつもと違う服装のクラスメイトは涙ぐむ者と走り回るもので重たい服を振り乱していた。
私はよくお世話になった図書室が開いていることに気がついた。
図書委員会を最初から最後まで続け、書記、副委員長、委員長と全てを図書室でやってきた。最後に折角だから、偶然開いていた図書室に挨拶をして鍵を締めた。
「この鍵を握ることも、このドアを動かすことももうないのか。貸し出しの時使ったあのパソコン、何度も座った左端の日当たりの良いあの椅子、何度も開いたあの小説、授業で使ったあの辞書にももう簡単には会えない。そう思うとこの袴はいいものなのか、悪いものなのかよくわからない。」
そう、私が長々と呟くと、後ろから図書室を閉めに来たのであろう先生が通りかかった。
軈て、集合の時刻が迫ってきた。さっきよりも重たい足を運んで体育館の前の廊下でその時を列に並んで待っていた。そこで思い出した。今思ってももう遅い。たったさっき、とんでもない、いや、それどころではない、このためかのようにあった大チャンスを悉く逃していたことに気がついた。
それは、図書委員会の集まりの時のことだ。図書室の私がいつも座る席のすぐ横にはファイル入れがある。そこに私の大切な絵日記を置いてきてしまったのだ。然も、その間には大事なメモが挟んであるのだ。でも、正直なところ、内容は覚えていなかった。だけど、取り戻したい理由はどこかにあるはずだ。
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