ウォード四人衆
コリン・クルザー。ニック・オリア。バンタム・ギルト。ヤン・スタッシュ。
この四人をウォード四人衆と呼ぶのは後世の脚色だと最近までいわれてきたが、諸国戦争期の早期にこの呼称があったことが、最近の研究で明らかになった。
つまり、この四人がガイネリアで将軍に任じられ、コリンはジョグのもとで第五軍の副将を、ニックは第六軍の、バンタムは第七軍の、ヤンは第八軍の将をそれぞれ務めたその当初から、あるいはそれ以前から、彼らはそう呼ばれていたのである。
ただしニックとバンタムとヤンの経歴について今日伝わっていることは、まったく信用できない。三人はそれぞれの国で、自分の過去についてひどく荒唐無稽な作り話を語った。彼らの後継者やその家臣たちが史実とすりあわせるべく必死の作業を行った結果、何が事実で何がそうでないかがまったくわからない伝記が出来上がってしまったのである。
おそらく彼らはコリンと同じく、大陸東部辺境にジョグがいたころからの盟友あるいは家臣である。にもかかわらず、魔神戦争の惨禍を受けなかった東部辺境の資料に彼らの名がみあたらない。つまり彼らは資料に記載されないほどに零細な騎士家の出身だったのである。
コリンは、十歳のときジョグの援助がなければ母親の薬代のために剣も鎧も売り払っていただろう、と言い残している。それは騎士になることを諦めるということであり、それほどに窮乏していたのだ。そしてほかの三人も、おそらくはそう変わらない身の上ではなかったろうか。
ただしそのことは、諸国戦争期以降に彼らが果たした役割を矮小化するものではない。彼らは大陸史に特異な一場面を現出させた人々であり、彼らの活躍がなければ、はるかに大勢の人が死んでいただろうし、旧ガイネリア地方の諸文化は、ほとんど今日に伝わらなかったであろう。
ジョグの指揮下で戦うときの彼らの突破力はすさまじいものであったという。彼らの働きによりガイネリアは力を取り戻し国土を広げ、中原の一大強国へとのし上がった。
ジョグの出奔後、ニックとバンタムとヤンの三人は、それぞれ子爵に叙せられ、外縁の街を食邑として与えられた。これはあまりに強大な軍事力を持つようになった彼らを分散させて都から遠ざけるとともに、外敵の侵入を阻む防衛力として機能させる目的であったといわれる。
三人の食邑は当初けっして裕福な街ではなかった。しかし折からの多国間貿易の伸展にともない、外縁部にあった彼らの街は中間貿易で多大な利益を上げ、結果として彼らはますます軍事力を増大させた。
そのことによって、魔神戦争が勃発し、ガイネリアの都が滅び去ったあと、民衆には避難先が与えられたのである。一部王族もニックのもとに身を寄せ、一時の安寧を得た。
そして、すでに老齢であった彼らはそれぞれの軍を率いてゲラ・ウォードのもとに集い、多大な犠牲を出しながらではあるが、魔神たちを一時退けるほどの奮闘をみせ、人類亜人連合が反攻に転じるための貴重な時間をかせいだのである。
魔神戦争終結後、ちりぢりになったガイネリアの民衆を吸収して三人の食邑は拡大し、フューザリオン帝国によって大陸が統一されるまでの期間、小規模ながらそれぞれ独立都市国家として独自の文化圏を形成する。今日、彼らの国は、帝国の州となって残っている。
四人衆のうちでコリンただ一人が爵位も得られず王侯にもなれなかった。
だが、ニック、バンタム、ヤンの三王は、ジョグの供をしてフューザに消えたコリンを死ぬまでうらやましがっていたという。
(『前帝国時代人物誌略記』より)
(おわり)2015.1.1
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