第8話 兄弟喧嘩&親子喧嘩

助手問題が解決した俺達は、夕食を食べる為に、リビングに集まっていた。


「私なんかがご一緒してもよろしいのでしょうか?」


「ルゥは今日は客人扱いだ。問題は無い」


両親にも、ルゥの事は説明してある。どう説得するか考えていたのだが、特に何も言われなかった。少し拍子抜けしてしまった。

両親から承諾を得たのは良いのだが、残りの兄姉達にも説明しなければならないのが面倒だ。


「あいつの態度によっては色々考え直さねぇといけないんだよな」


「あいつと言うのは、ジリアン兄さんの事ですか?」


一人でブツブツ言っていたら、イリアが声を掛けてきた。


「ああ、その通りだよイリア。リリアナ姉さんの方は問題無いんだが……あいつに関してはその場の勢いでやるしかねぇ」


四兄妹の長男、ジリアン。魔法の実力は国のトップクラスなのだが。実力が有る故に他者を見下す事が多い。そして俺との仲は最悪。


「どうしたもんかなぁ」


俺が頭を抱えていると。


「おや?愚弟よ、居たのか。研究室に籠っていれば良いものを」


噂をすればなんとやら。兄姉揃って帰ってきやがった。


「ただいま、サム。そちらの獣人族は?」


「私は━━」


ルゥが口を開いた瞬間。


「『豪炎の魔弾』」


その言葉と共に大人の頭サイズの炎の玉がルゥに襲いかかる。


「!?」


「『|魔法消去(スペルデリート)』!」


咄嗟に炎の玉をうち消す。間一髪間に合った。


「ちっ…愚弟。どんな手品を使った?」


「その前に答えろ愚兄...てめぇはどこまで落ちぶれれば気が済む?」


「質問に質問で返すとは、礼儀を一から覚え直した方が良いのではないか?まぁいい、とりあえず答えてやるが...どこまでと言われても落ちぶれた記憶が無いな。獣を駆除しようとするのは別に不思議なことではなかろう?」


「ルゥは俺の助手でメイドだ。今日から一緒に暮らすんだぜ?駆除されちゃ困る。」


「愚弟よ...それはなんの冗談だ?この獣が助手でメイド?しかも同じ屋根の下で暮らすだと?ふざけるのも大概にしろ!!貴様こそ落ちる所まで落ちたなぁ!」


「お前だけには言われたくねぇよ愚兄!」


互いに武器を構える。ジリアンの杖は最高級品で、ジリアンの魔法の威力を大幅に上げる。

フェーズ3の魔法でも、フェーズ4級の威力に底上げされるのだ。くらえば一発ノックアウトだ。


「消し飛ぶがいい愚弟よ!今度という今度は許さん!『地獄の炎よ!我が杖に宿り、かの者に死を!|地獄の魔炎(インフェルノブレイズ)』!」


「詠唱魔法!?兄さん!本当にサムを殺す気ですか!?」


「無論だリリアナ。今度という今度はコイツを俺は許せん。なぁにすぐに終わる...これをあいつにぶつければなぁ!」


「そんな...私のせいで主様が!」


「だめ!ルゥちゃん!今近付けばあなたまで巻き込まれる!」


「でも主様が!!」


「今出ても兄様を困らせるだけです!なんでこんな時に限って杖を部屋に置いてきてるの、私は!」


ルゥとイリアと姉さんの声が耳に入ってくる。

全くとんでもない兄だ。家のリビングで詠唱魔法を使うとは。

詠唱魔法は、発動するのに少し時間がかかるかわりに、通常の魔法とは桁違いの威力を持つ。

まぁ、屋内で使うような魔法では無いな。だからお前は愚兄なんだよ。


「お別れだ!受け取れぇぇぇ!」


愚兄俺に俺に魔法を放つ。

当たれば即死、避ければ家が燃える。さぁてどうする?


「答えは簡単」


消せば良い。

俺は腰からもう一つの短剣を引き抜く。そして━━


「|魔法消去(スペルデリート)!」


二つの短剣で魔法を打ち消した。


「なんだと!?」


「なぁ愚兄。残念だけど、俺にはもうお前の魔法は通用しない」


「ふざけるな!貴様!一体どんな魔法を使った!?答えろ!」


「俺には魔法を使うことは出来ないって忘れたか?だからこそお前は俺を見下していたじゃないか」


「答えろと言っている!」



「二人共いい加減にしろ!」


部屋に怒声が響き渡る。その声は、部屋に入ってきた父のものだった。


「なっ...父上...」


「父さん...」


「これはなんの騒ぎだ!ジリアン、サム。互いに武器など構えよって!家の中を血で染める気か!」


父は顔を真っ赤にして声を荒らげる。ここまで怒った父を見るのは初めてだ。


「あなた、少し落ち着いてください。とりあえず話を聞かないことには...」


つれて母も部屋に入ってくる。


「お父様、お母様、私が説明します」


そう言ってイリアが事の経緯を話す。


「ジリアン...貴様という男は!実の弟を殺そうとするなど!兄どころか人としてやってはならん事だぞ!」


「ですが父上!こいつは我が家に獣風情を勝手に上げて挙げ句の果てにメイドだの助手などとほざくのですよ!許せるはずが━━」


「ジリアンよ」


父がジリアンの言葉を遮る。


「もういいジリアン、出ていけ」


「な!?」


「今回ばかりはやり過ぎたなジリアン。お前の噂は俺の耳にも入っている。凄まじい量の悪評がな。それでも俺はお前を信じていたんだが...実の弟を殺そうとする場面に出くわしたとなると、流石にもう信じる事は出来んよ。だから、勘当だジリアン。この家から出ていけ。お前にはもうロンデンハーツの名を語る資格は無い」


「ふざけるな!俺がここまでやってきたことが全て無意味になってしまう!いくら父上と言えど、許さんぞ!」


ジリアンは杖を構える。


「ほう。俺に杖を向けるかジリアン。覚悟は出来ているんだろうな?」


「覚悟するのはそっちだ父上。魔法の実力では俺はあんたより上なんだ!」


「確かにそれは事実だ。だがな、ジリアンよ。」


父が杖を取り出し、横に振る。すると━━


「な!?」


「なんだあの魔法は?見た事も聞いたこともない!?」


「兄様でも知らない魔法があるんですか!?」


「いや、大体の魔法は網羅してる。あれはおそらく...」


「あの人の固有魔法よ、サム」


答えたのは母だった。


「主様、固有魔法とは一体なんですか?」


「固有魔法は術者が自分で作り出したオリジナルの魔法の事だ。赤、青、黄、白、黒、どの色に対応するかも作った本人にしか分からん。」


「あの人の固有魔法は詠唱も、単語を言う必要も無い、言うなれば無詠唱魔法。威力は通常の魔法よりも劣るけれど、消費魔力が少なく、攻撃速度が倍以上なのよ。ジリアンの言う実力というのは魔力総量の事。確かにそれならジリアンの方が上なのは間違い無いわ。でも実戦経験の差は、流石にそれだけじゃ埋めることは出来ないわね。何よりもあの魔法を使われてあの人の前に立ち続ける事が出来た人なんて、私くらいなものなのだから」


「無詠唱魔法...それは、マジでずるっこいですね。お父様はこんな魔法を持っていたのですね」


「流石私達の父様と母様。底知れないわね」


妹と姉が二人で何やら納得している。

それには同意見なのだが。それよりも最後の母さんの言葉が気になる。母さんも実力は高いが。一番得意とするのは回復魔法のはず...どういう事だ?


「ルゥ、助手としての初仕事だ。父さんの動きをよく観察しておけ」


「わかりました!」


「正直この魔法は二度と使う気は無かったんだが。お前が相手となると話は別だジリアン。手加減なしでいくぞ!」


父が杖を振り、複数の光球を放つ。


「そんな攻撃で!」


ジリアンは光球が当たる事など気にした様子もなく突っ込む。


「ほう。魔装か、だが、それは愚策だぞジリアン」


「はん!余裕な事で...何ぃ!?」


急にジリアンの動きが止まる。


「相手の魔法の効果も分からないうちに突っ込むなど、愚策中の愚策だ。戦場ならば、貴様は死んでいたぞ?ジリアン」


「一体何をしやがった!!」


ジリアンはそのまま地面に膝をつく。立つことが出来ないようだ。


「そうか!父さんの魔法は黒魔法なんだ!だから回復のエキスパートの母さんは勝てたんだ!」


「その通りよ、サム。あの光球は、触れると身体に少しづつ痺れを与えていくの。流石に一つ当てるだけじゃ足りないけど。複数当てることが出来れば。相手はあっという間に倒れ込むわ。」


「複数当てるって...あの量は、複数ってレベルじゃあない気がするんだが?」


「そう、だから下手をすれば相手に後遺症を残してしまうの、だからあの魔法は封印してたのよ」


下手をすれば相手に命の危険が及ぶレベルの魔法を無詠唱?頭おかしいだろおい。


「やっぱり、愚兄は愚兄だったか…最後ぐらい俺に賢兄って呼ばせろよな...」


「主様?」


「なんでもないよ、さて、そろそろ決着が着きそうだな」


俺は再び対峙する二人を見つめる。


「なんでだぁ!ここまで積み上げてきたこと全てを!よりによってなんであんたに崩されなきゃならねぇんだぁ!」


「ジリアン、お前にもロンデンハーツの血が流れているのならば、自らを律し、正し、そして戻ってこい!ここに居る全員がお前を認めた時、再びお前を迎え入れよう。」


「父上...」


「行け、ジリアン。私は待っている。」


「ちっ...負けたよ。なんでそんなに強いんだ、あんたは。」


ジリアンは立ち上がる。どうやら身体の麻痺は引いたようだ。


「大人しく出ていくよ。流石にここまで実力が違うとは思っていなかった。愚弟よ、最後に一言言わせろ」


「急になんだ」


「次に戦う時は貴様を倒す!覚えていろよ?じゃあな」


「覚えとくよ愚兄。じゃあな」


そう言ってジリアンは背中を向けて去っていった。

...その後の部屋の掃除は大変だった。


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