第7話 愛のカタチ

とりあえずイリアを落ち着かせて、俺たちは俺の部屋に集まった。


「それで、お兄様。その獣人は何なんですか?お兄様が奴隷を買うとは思えませんし、何よりその獣人は足に鎖が無い。彼女は一体?」


「イリア。さっきも言ったが、彼女は俺の新しい助手、ルゥだ」


「はじめまして、妹様。私はルゥと申します。主様の助手、そしてメイドとして働くことになりました。これからよろしくお願いします」


ルゥがイリアに自己紹介をする。


「私はイリア。お兄様って呼んでいるからもう分かってると思いますが、お兄様の妹です。さっきはごめんなさい。私、興奮するといっつも周りに迷惑をかけちゃって」


イリアは、自己紹介をして、ルゥに謝罪する。


「それで、どうしてお兄様の助手に?しかも同時にメイドなんて...」


「俺が頼んだんだ。というか、まずは今日あった出来事を説明した方がいいか」


俺は今日の研究室の出来事。そしてルゥと出会ったいきさつを説明した。


「なるほど、とりあえず、そのおサボりになられていた騎士はジュリオ叔父様に何とかしてもらいましょう。それで、お兄様が彼女を助手にした理由を聞かせてもらってもいいですか?」


イリアがずずっと詰め寄ってくる。少し怖いんだが。


「理由っていう理由は特に無いかもなぁ。成り行きでこうなった感が否めないから」


「そんな!?酷いです主様!成り行きだなんて...」


「待て待て。まだ話は終わっていない。少なくとも最初は助手にする気なんてさらさら無かったんだよ。可哀想な奴隷の女の子。俺は奴隷制度が嫌いだから、止めただけだった。正義感も特に無い、ただの我儘。けど、そんな俺をこいつは純粋に慕ってくれたんだ。助けてくれた恩人だと。だから俺はルゥを助手にしたくなった」


「主様...」


「なるほど、お兄様の気持ちはわかりました。ですけど!」


「まだ何かあるのか?」


「助手が一人だけなんて誰も決めていません!つまり!私もお兄様の助手になります!」


またこの妹は...


「なんでそうなる!?いつも言っているだろう!お前は俺の助手なんかになっちゃ駄目なんだよ!」


「何故です!?何故ルゥさんなら良くて私ならダメなんです!?」


どうして分かってくれないんだろう...この妹は。

イリアは天才だ。この国の中でいま一番優秀な魔法士はイリアだろう。そんな天才魔法士が、魔法が使えないイカれた研究者のレッテルをはられた俺の助手なんかになったら、どんな目で見られるかなんて、分からないはず無いのに。


「研究の手伝いをしてくれることには感謝してる。けど、あくまでお手伝いだ、助手としては認められない。」


「お兄様が考えていることは分かっています。私が世間からどんな目で見られるかを心配なさっているんでしょう?ですが!それでも私はお兄様の助手として働きたい!」


「何故そこまで俺にこだわるんだよ!」


「お兄様を愛してるからです!」


「そんな理由で...」


物への愛ではなく、人への愛。それはとても不明瞭なものだ。人へ向ける感情は、時折爆発する。さっきのイリアのように。


「お兄様も人を愛せば分かりますよ。この愛という感情は、中々制御できないものです。」


「お前は一々俺の心を読むんじゃない。」


どうすればこの妹を説得できるんだ?

俺がしばらく悩んでいると、ルゥが口を開いた。


「主様、私は...私は妹様を助手にする事に賛成します」


「な!?」


「ルゥさん...」


何故ルゥがそんな意見を出したかが理解できない。

ルゥがイリアを助ける理由がわからない。

だが、ルゥの言葉は続く。


「主様。私はここに向かう途中、何故奴隷制度が嫌いなのか聞きました。そして主様は、自由を与えられず、理不尽な暴力に反抗することも叶わず、ただ命令された事をするしかできないなんて、あってはならない。だからこそ嫌いなんだと言いました」


そういえばそんな話をしたな。その話を聞いたあとにルゥの俺を見る目が一層キラキラしているように見えたが。


「それが何か関係あるのか?」


「よく考えて下さい主様。主様は今、妹様がやりたい事をする自由を奪っているんですよ!」


「な...!?」


「主様の立場からしたら妹様のことは心配でしょう。ですが、やりたい事を決めるのは主様では無く、妹様のはずです!」


よくよく考えてみればそうだ、俺は一番嫌いな事を俺自身でしていた。そこに悪意が無かったとしても、最終的に決めるのは 俺じゃない!イリアだろう!


「お兄様」


イリアが改めて俺に向き合う。


「私を、助手にしてください」


対する俺もイリアに向き合う。そして...


「はぁ...分かった。後悔しても知らんからな」


OKを出した。


「ありがとうございます!お兄様!」


イリアが抱き着いてくる。


「おっと。そんなに喜ぶことなのかよ?助手なんかで」


「私は嬉しいのです!」


俺はイリアの頭を撫でる。するとイリアは気持ち良さげな表情になる。

よくよく考えて見れば、助手になるかならないかでここまで揉めるなんて、馬鹿みたいだと思ってしまう。

そんな馬鹿みたいな揉め事もやっと解決だ。


「ありがとな、ルゥ。気付かせてくれて」


「いえ、とんでもないです。主様ならそのうち気付いていましたよ」


ごめん、そんな自信全くない。


「ルゥさん、本当にありがとうございます。あなたが居なければ私はきっと助手になれなかった」


「いえ、妹様。私はただ思った事を言っただけですので」


「イリア」


「え?」


「妹様じゃなくて、イリアって呼んで」


「ですが、そんな...」


「俺からも頼むよ、ルゥ」


「ではその、えっと...イリア様」


「様はいらないです」


「そんな...呼び捨てになんて出来ませんよぉ」


「なら、ちゃん付けしたらどうだ?」


ちゃん付けならお互い呼びあえるし、いいと思うんだが。


「なら、ルゥちゃん。これからよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします...イリアちゃん」


ここに、俺の2人目の助手が誕生した。

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