第6話 my sister

「ここが主様の家ですか...」


「そうだ。ここが俺の家だよ」


ルゥは、ロンデンハーツ家の屋敷を見て唖然としていた。

ロンデンハーツ邸は、王国の貴族の中でもトップクラスの敷地を持つ。どれぐらい大きいのかは詳しくは知らないが、前母に聞いたところ、敷地を1周するのには半日以上かかるそうだ。


「か、かなり大きいですね...」


「正直俺も、なんでこんなに無駄にでかいんだっていつも思っているよ」


「これ、本邸に行くのにも時間掛かりません?」


「ああ、そこは気にしなくても大丈夫だ。所々に設置型の転移魔法が置かれている」


因みに、この設置型転移魔法を開発したのは俺である。家族にも好評で、5年ほど前から取り入れている。それまでは本当に面倒だった。一々歩かないといけないんだから。おかげで足腰は鍛えられたが。


「とりあえず、本邸に行こうか」


「はい」


魔法陣の上に乗り、起動させる。この魔法陣は、人が乗ると起動する仕組みになっている。

門にある魔法陣は、本邸の扉の前に転移するように設定してあるので、あっという間に門が目の前に現れる。


「凄い...この距離をこんな一瞬で...」


「獣人は魔法を使う事ができないからな。はじめての体験だろう」


まぁ、魔法は俺も使えないんだが。


「これが魔法なんですね。とっても便利です」


「魔法を使えないのは、とても残念だが、魔法を作る才能があった事は幸運だな」


「魔法が使えないって、どういう事です?」


「あれ?言って無かったか?...言って無かったな。グラウスとの口喧嘩で忘れていた。助手にするからには言っておかないといけなかったのに」


グラウスにいつもどこかしら抜けてるって言ってるのに、俺も抜けてんじゃねぇか...。

俺は、自分が魔法を使えない事と、研究している内容についてルゥに説明した。


「主様が私の鎖を切ったことに、グラウスさんが驚いていた理由がわかりました。昔から苦労していたんですね…」


「同情はするなよ?俺は俺の生き方を見つけたんだから」


「いえ、同情している訳ではありません。ただ、先程の言い争いを見たあとですので、主様の考え方は少し危ういのではないかと思ってしまい...」


「俺の考え方が危うい?」


「主様はご自身の命を軽く考えているように思えてしまうんです。魔法の事になると、ですが。グラウス様が仰っていた意味をよく考えてほしいんです」


「...扉の前で話す内容じゃ無いな。その話は後でしよう」


正直、これは逃げだ。今日あったばかりの少女に、ここまで見透かされるなんて思ってもみなかった。同時に、この少女なら、本当の俺を理解してくれるのではないか?という淡い期待を抱いてしまう。


「夕飯を食べた後、俺の部屋に来い。そこで話そう」


「わかりました。主様がそう仰るのなら」


そして、俺は扉に手を掛ける...が。


(なんだ?この嫌な予感は?)


本能が扉を開ける事を拒否している!この感覚には覚えがある。これは恐らく...。


「ルゥ、右に3歩ずれろ」


「右に3歩ですか?わかりました」


いち、にぃ、さん、とルゥが右にずれる。これで準備完了。


「よし、行くぞ...」


俺は覚悟を決めて扉を開けた!


「お兄様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」


妹が叫びながら飛び掛ってきた!!


1, 避ける


2, 受け止める


無論俺は1を選択──する暇も無かった。


「えーい」


「どぉわぁ!?」


そのまま妹に抱き着かれながら後ろに飛ばされる。

俺は慌てて受け身になり、背中から着地。


「危ないじゃないか!イリア!」


「お兄様が早く帰ってこないから悪いんですよ!変な女に誑かされてないかと私は心配で心配でしょうがなかったんですから!!」


「主様!?だ、大丈夫ですか!?」


いきなり後ろに飛んでいった俺にルゥが慌てて駆けつける。


「大丈夫だ。いつもの事だから。今日はいつもよりかなり激しかったが...」


「お兄様?この獣人は何ですか?何故お兄様に気安く話しかけてるんですか?そもそも主様って何ですか?何なんですか!?」


「落ち着けイリア、この子はルゥ。俺の新しい助手だ」


「助手!?な、何故です!!何故私では無くこの獣人なのですか?私がお兄様の助手になるって昔から言っていたではないですか!」


「お前は俺の助手なんかで収まっちゃいけない。もっと世界を見てみろ?他にやりたい事はきっと見つかる」


「私はお兄様の為だけに自分を磨いてきたんです!お兄様以外の事に興味なんてありません!」


「イリア...」


「あの?主様、私はどうすれば?」


ルゥがいきなりの展開に追い付けていない。とりあえず、こんな所で言い争ってもしょうがないので、俺はルゥとイリアを連れて家の中に入った。

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