第4話 信頼関係

俺の頭の中は混乱していた。

その原因の目の前の少女は真剣な眼差しで俺を見ている。というか睨んでいる。

目の前の少女が突然放った衝撃の事実は、多少のことでは動揺しない俺を容易く動揺させた。

それもそうだろう、これで驚かない人がいれば見てみたいくらいだ。

ルギアナ王国第3王女。

彼女は自分の事をそう名乗った。

「この髪を見てもらえれば、信じてもらえると思います」


彼女が指を鳴らすと、髪の色が、黒から銀色に変わった。


「純粋な銀色の髪...なるほど、変装していたのか」


「この髪を見られると、さわぎになるでしょうから」


「純粋な銀髪か、これは信じるしかないな」


ルギアナ王国は、ほぼ全ての人が銀髪だ。しかし、純粋な銀色では無く、赤髪が混ざっている。

純粋な銀髪を持つのは、王家だけなのだ。

目の前の少女の髪は、自らが王家の血筋である事を物語っている。


「クリス、お前が知りたいと言った神話魔法だが…何処でその存在を知った?」


「ルギアナ王国の禁書庫よ。私は魔法が大好きで、全ての魔法を使えるようになりたいって、小さな頃から思っていたの。禁書庫になら、私の知らない魔法がまだまだ沢山あるって思って忍び込んだの。そこで手にした本の内容が...」


「古文書...だな?」


「そうよ、やはり貴方も知っているのね?魔法の秘密を」


「ああ、俺もついこの間禁書庫に忍び込んだばかりだからな...内容は覚えているか?」


「人の魔法の起源が神様の力ってことと、魔神の復活について書かれてあったわ」


「なるほど...内容は殆ど同じのようだな。ならば」


俺は、机の上に置いてあった資料をクリスに渡した。


「それが、今俺が持っている情報だ。正直な話、現状では、神話魔法の存在そのものが怪しい。なんと言っても、俺は神話魔法の存在をクリスに聞くまで知らなかったんだからな」


「...確かに、この資料を見た感じ、神話魔法については書かれていないわね...」


「ああ、禁書庫にはそうほいほい入れる訳じゃないから、現状、神話魔法の存在については保留にさせてもらう。つまり王女様の依頼は受けられないって事だ」


「報酬金は弾むわ、二億コルでどうかしら?」


ああ、これだから王族は嫌いなんだ、金で全て解決できると思っている。


「問題は金じゃないんだよ。あくまでもあんたと俺との信頼関係だ。こっちも情報は開示したが、それまでだ、俺はまだあんたを信頼できると思っていない。」


「つまり、まだ隠している情報があるのね?...どうしても、信頼できないかしら?」


「はぁ...クリス、おまえは今日初めて会って、初めて話した相手をそんな簡単に信じれるか?普通に考えて無理だよ。信頼ってのは、一朝一夕でできるもんじゃないんだ」


俺は家族や、グラウス以外の人間は基本信用していない。国王であっても、学校のクラスメイトであっても。

自分の力を利用しようとする奴らがいる。そしてそいつらがどこにいるかも分からない。

そんな俺を信用させられるだけの人でなければ、俺の力についても明かせない。


「...分かったわ。今日のところは諦める、だけど、依頼は諦められない。貴方が私を信頼してくれるまで何度でも依頼するわ。もし貴方が私を信頼に足る人物じゃないと判断した時は、潔く諦める。でもそうでなければ」


「考えておこう」


俺は彼女について余りにも知らなさ過ぎる。もし彼女が信頼できれば依頼は受けよう。なんと言っても――これは、俺にとってもチャンスだからだ。

王族の力を借りることが出来れば。これまでできなかった実験も可能になるかもしれないからだ。


「じゃ、今日のところは帰るわ。また近いうちに会うことになるでしょうけど」


彼女は再び自分の銀髪を黒髪に変えた。


「それじゃ、助けてくれてありがとう。絶対貴方に私を信頼してもらうわ!」


彼女が研究室を出ようとする。しかし、俺は一つ気になることがあったので呼び止めた。


「ひとつ聞いてもいいか?」


「何?」


「お前、王族なのになんでそんな口調なんだ?」


「それはね、私は特別だからよ」


「特別?」


「ふふ、この先は貴方が私を信じてくれたら教えてあげる〜」


そう言って扉を開け、そのまま帰っていった。


「...ちっ、ちょっと気になっちまうじゃねぇか」


一人残された俺はボソリとそうつぶやくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る