第2話 樹海の研究室
ファーリス樹海。
王都ランゼルの東にある比較的大きな樹海である。
危険な生物が出たりする訳では無いが、夜になると霧が濃くなり、迷う危険性が高くなるため、あまり人は近付かない。
俺、サム・ロンデンハーツの研究室はそこにあった。
研究している内容が周りにバレると不味いので、あえてここに作ってもらったのだが、この樹海は俺の探求心をくすぐる物の宝庫だったので、樹海を探索し尽くしてしまい、今では国からこの樹海の管理を任されてしまっている。
1研究者に樹海全体を任せてもいいのかと思ったが、反対するものがいなかった(面倒事を押し付けたかっただけだろうが)ため、引き受けることになった。
そんな樹海の研究室にいつもの通り来た俺だったが、すぐに異変に気づいた。
(誰かが侵入した形跡?)
この研究室には、機密情報がかなりあるので、厳重に罠を張っている。
その罠を強引に突破した形跡があった。
「不味い!?」
俺はすぐに研究室に入りこんだ。すると。
「なんだこれ?...手紙と...何だこの箱は?」
机の上に手紙と謎の正方形の物体が置いてあった。
中身は空洞のようなので、箱なのは間違いないと思うのだが。
「開ける場所が無い?」
謎の物体と睨めっこしていると。
「は!?資料!!」
正気に戻り、資料が漁られていないか確認する。
「何も漁られた形跡が無い?どういう事だ...」
とりあえず、資料を漁られていない事を確認し終えた俺は、手紙に目を向けた。
「犯人はこれを置いていくためだけに入り込んだというのか?」
あんな強引に罠を突破してまで俺に伝えたい事とは何なのか気になってきた。
「とりあえず、読んでみるか」
俺は手紙を手に取った、そこには━━
『私はあなたの力の秘密を知っている。その秘密が知りたければ、そこにある箱を開けなさい。その箱を開けることが出来れば、あなたは力を手に入れることが出来る。私の言葉を信じ、力を欲するならば、その箱を開けて見せなさい。』
俺の秘密?
そんな事はひとつしかない。
「俺の秘密を知るもの?ははは、面白い。どこで知ったかは知らんが、受けて立とうじゃねぇか。この箱の謎を解き明かせばいいんだろ?やってやるぜ!」
俺の秘密を知っていようが、ただのはったりだろうが、受けた挑戦は買わねば。
謎解きがただでさえ好きな俺に挑むとはいい度胸だと、俺は燃え上がるのだった。
<hr>
「おーい、サムー?居るかー?」
グラウスの声だ。
この謎の物体は気になるが、まずはグラウスとの約束を片付けねば。
「ああ、居るよー!入って来てくれ!」
グラウスに返事をして中に入るよう促す。
「よう、研究の進み具合はどうだ?」
「ぼちぼち進んでいるよ、教室で話した件についてだが、まずは魔法についておさらいしよう。知っての通り俺以外の人類は皆魔力を持っている、ならばその魔力はどのように種類分けされる?」
「炎、水、雷、回復、異常、この五つに分けられ、それぞれ赤、青、黄、白、黒の5色に分けられる、だよな?」
特に考える事もなくグラウスは答える。
「その通り、これは基本中の基本だな、では、魔法を発動するのに必要なものは何だ?」
すると、グラウスはしばらく考えたあと
「使う人の魔力と、大気中にあるマナ、そしてその人の想像力か?」
と答えた。
「その通り...と言いたいところだが、この程度のことをそこまで考えるのはどうかと思うぞ?」
「喧しい!俺の事はどうでもいいだろうが!それよりも、今のがお前の発見に関係が?」
「話を逸らすな...まぁいい、そうだ、今回の発見には、マナが大きく関わっている」
俺は、奥にある本棚からファイルを取り出した。
「魔法の発動には、魔力、マナ、魔法を形作るイメージが必要だ、この3つの要素のうち、俺が注目したのはマナだ。マナは、世界の真ん中にあるマナの樹から生まれている粒子だ。人間が魔力を持っているのは、古来からこのマナを体に取り入れているからだという」
俺はファイルを開けてグラウスに見せた。
「なんだ?この古い資料は」
「これは王から許可を得て複製した古文書の一部だ、この部分を見てくれ」
俺は資料のある部分を指した。
「これは、魔物との大戦の様子を記している、これを解読したところ、かつて人間と魔物との戦いが毎日のように起こっていた事が分かったんだ。そしてその戦いでは、人間は魔法を使っていない、対して魔物は魔法を使っているんだ、これがどういうことか分かるよな?」
グラウスは少し考え
「つまり、昔の人間は魔法を使えなかった...いや、魔力が無かったのか!?」
「その通りだグラウス!この古文書に記されている時代は人間には魔力が無く、魔物に蹂躙されていたんだよ」
「これはすごい発見じゃないかサム!歴史的発見だぞ!」
と、グラウスは興奮する。
「まてまてグラウス、ここまではもう解読されている事なんだよ、あと何年かすれば世間一般に知られるだろう」
「おい!俺の興奮を返せよ!」
グラウスはご立腹の様子、だがまだ話は終わっていない。
「ここからが俺の見解なんだ、ほかの研究者達は、この戦いが続く中、人間は魔力を得ていったと考えているんだが、よく考えてみろ、マナの樹は人間が誕生する前からあるんだ、ならば何故魔物は魔力を持っているのに人間は持っていない?」
「言われてみれば...」
グラウスも腑に落ちない様子だ。
魔物とは、今より遥か昔の時代に存在していた魔力を持ち、魔法を使うことが出来る怪物達の事をいう。しかし、この古文書に記されている大戦で滅び、今では存在しない。俺は、この魔物達にいつか会ってみたい。
俺は、本棚から別のファイルを取り出した。
「この資料を見てくれ、魔物について詳しく書いてある。この資料によれば、魔物は人間が繁栄したあとに出現したらしい。」
魔物は、人間より後に生まれたのに何故魔法を使うことが出来たのか?それが俺の疑問だった。
「そこで、俺は少し悪事を働いてしまったんだよ、グラウス君」
「悪事?お前...今度は何をしたんだ?」
グラウスは、「またかよ…」と、憂鬱げに聞いてくる。
俺は、昔からイタズラ好きで、色々とこいつに迷惑をかけていた、しかし今回はいつもとはスケールが違う!!
「聞いて驚け!国のトップシークレットが集う場所...禁書庫に忍び込んだ!」
グラウスはしばしぽかんとして...
「お前...バカじゃねぇの!!!???」
声を荒らげて言った。
それもそのはず、国の禁書庫と言えば、厳重な警備が置かれ、入ろうとしたものには死が待っていると言われる場所だ。そこに忍び込んでその上帰って来ていたら驚くだろう。
「まぁ落ち着け、とりあえずそこから資料をいくつかくすねて来たんだが...ここからが本題だ、とりあえずグラウス、落ち着いたか?」
「そんな事聞いて...というか言って!平然としているお前がどうかしてるよ...」
少し落ち着いたようだ、と俺は話を戻す。
「さぁグラウス、ここからが待ちに待った話の本題だ。その前に1つ聞く、ここから先は国家機密だ。知っているだけで処刑されるレベルのな。聞く覚悟はあるか?」
するとグラウスは口元を緩め
「何を今更、俺はお前に地獄までついて行くって約束しただろ?聞こうじゃねぇか」
「分かった。その時見た資料に書いてあった内容を模写してきた、まずはそれを見てからだ」
俺は奥の本棚から一枚の紙を取り出した、それをグラウスに渡すと書かれている内容に目を通していく、しばらくすると
「これは...どういうことだ!?」
グラウスは目を見開いた。そこには━━
『人類に、我の力を与える、この力はマナの大樹の煌めきなり、忌々しき魔神にその力を使わせるべからず、この魔力を用いて魔物を封印せよ、さすれば未来永劫の平和を約束する。人よ、ソナタ等の命を賭して、我と共に魔神を滅するのだ。』
「これを直訳すると、これを言っている者が人類に魔力を与えたということになる、そしてこの言葉を放つ存在は...」
「神様...ってか?」
俺は目を見開いた。答えが返ってくると思っていなかったからだ。
「おそらくな、全くとんでもない発見だ、国家機密な訳だよ、これが世に出れば、それを信じる者、信じない者達が争うし、狂信者が現れるのも間違いない。世は大混乱だよ、しかし、魔力が与えられた力とはねぇ」
そして俺はもう1枚の紙を見せる。
「...まだあんのか、今度はなんだ?」
「おそらく俺に関係した事だ」
グラウスの表情が険しくなる。
「何か分かったのか?」
「それを見てみれば分かる」
グラウスは紙を読み進めた、
「これが本当なら...本当にお前なら。お前は...」
グラウスは表情を曇らせる。そこには━━
『魔神復活の兆し見られし時、人類に1つの命を授ける。その者、魔力持つが、魔法使うこと叶わぬ。されど、その能力、特異なり。その力目覚めし時、魔神との決戦の時なり。我、その者を生み出す時、力を使い果たす時なり。人よ、力を手に入れ、我の代行者となれ。悪しき魔神に永劫なる眠りを与えよ』
俺の正体、存在する意味が記されていた
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