第42話 か、書けない!?
ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。
「か、書けない!?」
全話の「お餅」が名作過ぎて、16才の谷子は本が書けなくなっていた。
「私の普段の生活は、どれだけ悪ふざけが多かったんだ!? うおおおおお!?」
谷子は自分の世界の話が悪ふざけに溢れていることに懺悔の念に苛まれていた。
「き、気分が悪い!? 吐き気がする!? なんだ!? このプレッシャーは!?」
姿の見えない圧迫感に襲われる。
「私の第1話はどうなったのよ! 魔法少女エルメスは!」
栞が背後から谷子にプレッシャーをかけていたのだった。
「ダメだ!? 一層のこと「悲しいシリーズ」を書き続ける!? でも、それだと私の精神が壊れる!?」
といいながらも、恐る恐る谷子は執筆してみる。
信号待ち。
「ああ、生きていても楽しいことも無い。俺は何のために生まれてきたのだろう。」
一人の高校生の男の子が赤信号なので歩道で待っていた。
「お金持ちに生まれた訳でもない。勉強をがんばっても成績は上がらない。挙句に赤信号にも引っかかる運の無さ。俺なんか生きていても仕方がない。」
高校生は無意識のうちに一歩一歩、赤信号の横断歩道に体を侵入させていく。
「俺の生きている意味はなんだ? 俺に価値はあるのか? ああ、もう考えるのも面倒臭くなってきた。生きていたくない。俺がいなくなっても、世界は何も変わらない。」
交差点の真ん中で足を止めて、瞳を閉じる。
「ブッブー!」
猛スピードでトラックが信号に突進してくる。
「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください。」
高校生はトラックが近づいて来ても逃げようとはしなかった。
「ギギギギギギギー!」
トラックの運転手が高校生に気が付いて急ブレーキをかける。
「はあ!?」
急ブレーキの激しい音に高校生は何かを思い出した。
「NHK教育チャンネル土曜日夕方5時30分から魔法少女エルメスちゃんのアニメがあるんだった!?」
高校生は自分の生きる意味を思い出した。
「そうだ! 俺はアニメが好きだったんだ! 俺は魔法少女エルメスちゃんの放送を楽しみに待っていたんだ! 俺は、俺は! 生きる意味を見つけたぞー!」
生きる喜びに気づいた高校生。
「嫌だ! 嫌だ! 俺は死にたくない! 魔法少女エルメスちゃんを見るまで死にたくない!」
しかし、トラックは高校生の目の前まで来ていた。
終わり。
ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。
「意味が深い所で辞めるのがいいのよね。視聴者が「あの高校生は生きているのか!? 死んでいるのか!?」と勝手に考えてくれるから。」
谷子は本が好きで1億冊以上の本を読んできたので、どういう展開にすれば、面白いのか、人の関心を引けるのかを熟知している。
「なぜ!? 怪獣ちゃん!? あそこで魔法少女エルメスが現れて、高校生を魔法でトラックから救う所まで書けばいいじゃない!? そうすれば魔法少女エルメスの正義のヒーローとしての人気は右肩上がりでしょう!?」
栞は自分のことしか考えていなかった。
「お姉ちゃん。執筆の邪魔をすると、暗黒魔法少女エルメスちゃんにタイトルを変えちゃうよ?」
新しいダークヒーローの誕生である。
「それも面白いかも。魔法で東京タワーや東京スカイツリーとか引っこ抜いて、月に突き刺してみたいわね。キャハハハハ!」
暗黒魔法少女シリーズにすると面白いけど、ブランドイメージが悪くなるから無理。発売されても幻のダークシリーズ数量限定だわ。高騰必死。
「やっぱり私は魔法少女エルメスよね。エヘッ。」
この路線は譲れないのであった。
つづく。
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