第43話 命名

 ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。

「お姉ちゃん、本が書けない。」

 16才の谷子は栞とその友達に文句を言っている。

「しょうがないでしょ? 友達が来てるんですから。」

「ワン。」

「ニャア。」

 栞、犬のケーリーと猫のバーキン。

「どうも、魔法少女ルイヴィトンです。これ私の家族です。」

「ちゅんちゅん。」

「アホ~、谷子のアホ~。」

「zzz。」

 魔法少女ルイヴィトンと雀のモノグラム、カラスのヴェルニ、フクロウのダミエ。

「ごめんなさいね。大人数でお邪魔して。」

「私、部屋の片づけ手伝いますよ。ねえ、コンコン。」

「コン。」

 魔法少女ティファニーと妖怪のおみっちゃん、小妖狐のコンコン。

「いったい何人いるのよ!?」

 谷子には部屋に何人いるのか分からないカオスだった。

「怪獣ちゃんのために、みんなは集まってくれたのよ。」

「私のために!?」

 静かに執筆したい谷子には有難迷惑な話であった。

「これだけキャラクターがいれば、良い話も思いつきやすいでしょ。」

「まあ確かに。キャラが多い方が共感や展開は楽だね。」

 一人では売れないレベルでも、人数集めてワンセットにすれば売れるAKBのようなアイドルグループ商法である。

「それに今日は重大発表があります。」

「重大発表!?」

 屋根裏部屋は不気味な雰囲気に包まれる。

「発表します! 魔法少女ルイヴィトンと魔法少女ティファニーの名前を決定します!」

 例えると、魔法少女エルメスなら、栞である。

「ええー!? 今まで名前がなかったの!?」

 驚くところは人それぞれだが、面白いだろうということで谷子は魔法少女たちに名前が無かったことに驚かした。

「そうなの。そして名前を決めたら怪獣ちゃんと同じ高校に通ってもらいスクール生活を送ってもらいます!」

「やったー! 友達が増えるんだね。」

「なんて純粋な反応なの!? 我が妹ながらカワイイ。」

 喜ぶ谷子を見て感激する栞。

「ということで、こいつにいい名前ない?」

「こいつって言うな!」

 魔法少女ルイヴィトンが話し始める。

「ルイヴィトンのままだと外タレみたいだし、ルイで漢字を検索すると「涙」「泪」とかよね。」

「それいいな。気に入った!」

 ルイヴィトンは涙や泪という漢字を気に入った。

「ダメよ。面白くない。あなた軍隊系最強の魔法少女なんだから、「再生」とか「破壊」に関わる名前にしないと。」

「私の名前だ! 面白さは関係ないだろう!?」

「関係あるわ。それが渋井谷子の奇跡だからよ!」

 ルイヴィトンの抵抗も虚しく、エルメスには敵わなかった。

「でも再生とか破壊で調べても良い名前が出てこないのよ。」

「じゃあ、涙や泪で決まりだな。」

「そうはさせないわよ。私には奥の手がある。」

「奥の手!?」

「命名します! あなたの名前は破壊の壊と書いて、クァイ! 中国読みです!」

「クァイ!?」

「どう? カッコイイでしょう。ジャミロクワイって感じでイケてるでしょ。これも米中友好のためよ。受け入れなさい。」

「私の故郷はフランスだ!」

「聞き分けの無い子ね。やっぱり実力行使で勝負をつけようかしら。」

「こい! 永遠のライバル! 今日こそ太平洋に沈めてやる!」

「降り注げ! 銀河の星々よ! 必殺! スター・ライト・クラッシュ!」

「お国のためなら心臓を捧げます! 行けーい! 必殺! 日の丸特攻隊!」

 で、結局、取っ組み合いの戦いになる。ちなみに泪美豚なんて当て字も考えられる。

「私は勝手に名前を付けさせてもらうわよ。」

 冷静な魔法少女ティファニーは優雅に朝食を食べていた。

「そうね。結にしよう。永遠の愛を結ぶという意味で、ブランドイメージにもピッタリだわ。後から出てくるであろう魔法少女たちより先に良い名前漢字を抑えておかないと。それに帝富亜煮とか、ダサい名前やキラキラネームをつけられて学校でいじめられるよりよっぽどいいわ。」

「さすがティファニー様。なのに、私たちが妖怪でごめんなさい。ウエエエ~ン!」

「気にしないで!? おみっちゃん!? 私が妖怪を司る魔法少女なのは作品設定だから!? ほら!? コンコンもおみっちゃんを励ましてあげて。」

「コンコン。」

 こうして魔法少女ティファニーは結になった。

「あの、もう夕ご飯の時間なので帰ってください。」

 谷子の執筆活動は進まないのであった。


つづく。

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