14、お隣さんからのご挨拶。


 大小様々……いや、ずらりと横に並ぶ彼女たちに、小というものは存在していなかった。

 え? 私はどうなのかって?

 あははは、しにたいの?


「たのもーう!!」


 光の加減で虹色に輝く薄緑の肌を惜しげもなくさらし、際どい衣装と大きな羽飾りを身につけた一人の女性が、大きな声で私たちに呼びかける。

 うち、一応呼び鈴ついているんですけど……。


「たのもーう!!」


 窓のカーテンを少しだけよけて、こっそり外の様子を見ている私は小さくため息を吐く。

 こう言う時にかぎって、家に私一人とかなんだよね。困ったもんだね。

 

 家の周辺にはジルベスターの結界魔法が起動していて、イアンの認識阻害でここは森にしか見えないはずだ。それなのに彼女にはこの家が「見えている」らしい。これは由々しき問題である。


「ここにいるのはわかっている! でてこーい!!」


 ああ、もう、うるさいなぁ。

 出てこいって言われて、素直に出て行くバカがどこにいるんだっつーの。


「でてきて我と戦え!! おっぱいハンター!!」


 イアンのばか。







 それ(ハンター的なもの)をやってるの、家じゃなくて隣なんですよって言ったら、ばいんばいんな女性たち慌てて謝ってくれた。そしてお詫びにって果物をたくさんくれた。いい人たちだった。


 隣がどうなったかって?

 知らないよ。おっぱい戦争(クリーク)とかやってるんじゃないかな。


「オリヴィア! ここを開けて!」


 第一さぁ、私におっぱいがどうのこうの言うとかって、バカなの死ぬのって話になるじゃない?

 イアンの性癖だか理想のばいんばいんだかで、何がどうなろうと知ったこっちゃないわけよ。


「お願いだよ! オリヴィア!」


「ああもう、うるさいなぁ」


 イアンが必死にドアを叩こうとする瞬間を狙って、勢いよくドアを開けてやる。

 思いきり空振りした彼は、そのまま部屋に転がり込んできた。どんだけ必死なのか。


「ああ、オリヴィアありがとう……助かったよ……」


「助けるかどうかは、話を聞いてから決めるし」


「ええ? 幼なじみが困っているのに?」


「だって、あの人たち普通にいい人たちじゃない。果物いっぱいくれたし」


 もらったばかりの甘酸っぱい南国特有の果実をもぐもぐしながら、私はしょんぼりうなだれるイアンに冷たく接する。


「オリヴィアは、すぐ食べ物で懐柔されるんだから……」


「食べ物くれる人、いい人」


「ああ、もう、こんなに汚して……」


 口の周りをベタベタにしている私を、イアンは水と風の魔法で綺麗にしてくれる。

 なんだかんだと世話してくれる、幼なじみのアルスとイアンは私のお兄ちゃん的な存在だ。しょうがない、兄の不始末を妹が何とかしてやろう。

 ……三人の中で私が一番年上なんだけどね。


「それで、イアンは何をやったの?」


「ほら、隣の島に女性しかいない村があるって話があったでしょ?」


「ふむふむ」


「理想のおっぱいがあるかなって見に行ったら、もう村の人たちが皆ばいんばいんだったわけ」


「ほむほむ」


「だから理想じゃないなって引き返してきただけ」


「へむへむ……へむぁっ!? それだけ!?」


「それだけだよ! 無言で引き返しただけだよ!」


「でも羽飾りをつけた人、おっぱいハンターを出せって言ってたよ?」


 イアンがここにいる今、彼女たちは無人の隣家に突撃しているのだろう。


「あ、無人じゃないよ。アルスいるし」


「なんですって!? アルスが危ないじゃない!!」


 慌てて立ち上がる私を見て、イアンはキョトンと首を傾げている。

 なにをのんびりしているんだ! 原因はアンタでしょうが!


「勇者のアルスがどうにかなるわけ……」


「イアンのばか!(2回目)アルスは巨乳アレルギーなの忘れてるでしょ!」







 外に出れば、そこには簀巻きにされたアルスが泡を吹いて転がっている。

 もう、こんな時にジルベスターもエルヴィンも居ないんだから……。


「やっと出てきたな。おっぱいハンター」


「アルスを離してやってよ。関係ないんだから」


「お前が逃げ回るからだろう」


「僕が、何をしたって言うんだ!」


 薄い緑色の肌は蜥蜴族(とかげぞく)の証だ。大きな羽飾りを頭につけている彼女が長なのだろう。

 イアンの言葉に、彼女は黒目しかない瞳からポロポロと涙をこぼした。


「何をした……だと? お前……私の胸が育ったら……嫁にすると言ったくせに……ふぇぇ」


 くしゃりと顔を歪ませて泣き出す蜥蜴の長にイアンは呆然としている。ぼけっとしている奴の後ろ頭をスパコーンと叩いた私は、泣きじゃくる彼女の所へと向かう。

 周りにいる家臣?の人たちは私を止めようとしたけど、神官服を着ていたのが功を奏したのか黙って通してくれた。


「イアンのことを知ってたの?」


「一度だけ王都に行ったことがある……母上と一緒に……」


「そこでイアンと会ったの?」


「迷子で泣いてたら、おっぱいハンターが助けてくれた」


 あれ? そんな昔からおっぱいハンターやってたっけ?

 イアンを見ればスッと目をそらされた。どうやら昔のおっぱいハンターは正義の味方的な存在だったらしい。


「我は育てた。あやつの言う理想のおっぱいになるために、毎日鶏肉と牛乳と小魚を食べて、おっぱいトレーニングやおっぱい体操もしていた。おかげでこんなに『ばいんばいん』に育ったというに……」


「え、何それ。私もやりたい」


「しかしダメだった。おっぱいハンターなるものの理想とは『色、形、感触』そして『味』だったのだ」


「何を言っているのか、さっぱり分からないですね」


 四つ目について詳しく語るとヤバそうだから、とにかくそっとしておこう。


「まずは軽く口を開いて……」


 じゃかぁしい。だぁってろ。





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