12、ドーは大神官様ド◯◯のドー♪
確かに変だなって思ったんだよね。
私が神殿を逃げ出したということは王都の人たちどころか、神殿内部にも広まってないようだった。
「そうですね。オリヴィアは体調を崩した私に、献身的に尽くしてくれているということになっています」
「私の祈りで大神官様を滅しても?」
「嘘です。救国の聖女は、霊山の頂上で世界平和を祈っていることになっています」
「霊山って……」
神官という職業につく者は、嘘をついてはいけない。
嘘をつけば天罰がくだるからだ。もう、普通にゴロゴロピシャーンってなる。マジで痛い。最悪死んでしまうこともある。
大神官様が言ったことは、かなりギリギリだ。
オリヴィアの名ではなく救国の聖女としたこと、山にいるのを霊山としたこと、そして私は日々祈っているため大きな嘘にはならない。
そういう神の法の抜け穴みたいなものがあるのは、神官になる前の授業でも習った。
大人ってきたないって思ったけど、今となってはそれくらいしないと神官が滅亡してしまうよなって考えを改めたよね。うん。私もそんな大人のひとりになっちゃいましたね。
ジルベスターに抱っこされたまま遠い目をしていると、大神官様はその麗しい顔(かんばせ)を歪ませる。
「私の愛情が足りなかったのは分かります。大神官である私は、個人に対しておいそれと愛を語ることはできません。朝の礼拝での逢瀬、それだけが愛しいオリヴィアとの繋がりでしたからね」
「あんな変態行為をともなう繋がりなんて、切って捨てて焼いておしまい」
礼拝でくしゃみして、ありがたいと祈られる役目なんぞ、ゴミの日にしっかり分別して捨ててやるわ。
全身に鳥肌をたてて震える私を抱くジルベスターは、優しく頭を撫でてくれる。うう、泣きそう。その豊かな大胸筋様の匂いをかいで落ち着こう。すんすん。
簀巻き状態でハァハァしている大神官様を、イアンは呆れたように見下ろす。
「つまり大神官様は、オリヴィアの動静を知った上で、神殿の上層部に隠蔽していたってことかぁ。やるねぇ」
「私は……オリヴィアの帰る場所を作ってやりたかったのです……」
「大神官様……」
「そして思う存分、あの愛らしいくしゃみを真正面から受け止めたかったのです……」
「ざっけんな」
一瞬でも感動した私がバカだった。
でも、私が神殿からいなくなったのが表沙汰になっていないということは、世話役だったマリアさんが何か言われたりしていないってことだよね。
そこだけは感謝してもいいかな。言わないけど。
「さてと、オリヴィアはどうしたい?」
「え?」
「この人、オリヴィアがどこに逃げても来ちゃうと思うんだけど」
確かにそうだ。大神官様は祈りの力で、私がくしゃみをしたら飛び出てシャラララーンみたいになるんだよね。
「うーん……それなら、さらに強い祈りで上書きしておくよ」
「強い祈り?」
ふんわりした金髪をゆらしてイアンは首をかしげる。そのあざとい仕草は相変わらずだなと思いながら、私は説明する。
「しっかり祈っておくよ。くしゃみした時に私の元ではなく、本当に大神官様を必要とする困っている人たちのところへ送ってくださいって」
「そ、それはやめてくださいオリヴィア」
「大丈夫ですよ大神官様。ちゃんと用が終わったら神殿に戻してもらえるように、ちゃんとお祈りしておきますから」
輝かんばかりの笑顔で言う私のことを、唖然とした顔で見る大神官様。
私の祈りを取り消すのは簡単だ。最初に彼が祈ったくしゃみ云々のことを取り消せばいいだけだ。
「はぁ……わかりました。今回は手を引きますよ」
「感謝いたします」
「そこにいる竜族の方、彼女を守ってやってくださいね」
「当たり前だ。ヴィーは俺の番(つがい)だからな」
「それは心強いことですね」
そう言って泣きそうな顔で微笑んだ大神官様は、イアンの魔力の糸だけ残して姿を消した。
「なーんだ。わざと捕まっていたんだね」
「そりゃそうよ。仮にも力ある大神官様なんだから」
妙な性癖があろうとも。
「ところでオリヴィア、さっきまで肩にかけていたタオルは?」
ドがつくほどの変態であろうとも。
こうして私たちは虫以下の価値しかないド変態から逃れ、無事にジルベスターの居住地である南の島に着いた。
青い空、白い砂浜、透きとおるようなエメラルドグリーンの海。
島の奥には温泉も湧いているそうで、毎日入ってお肌がツヤツヤもちもちになるのが楽しみだ。
「それで、なんでアルスとイアンがここにいるわけ?」
「お前、嫁入り前の娘が男やもめの家にいるとか、有り得ないだろ」
「僕は隣の島にいる、女性しかいない部族が気になっているんだよねぇ」
「アルスは私の父親か! イアンはもう隣の島で住めばいいじゃない!」
もう! 私は静かに生活をしたいだけなのに!
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