9、違うからね?付いていないからね?


 魔法使いのイアンは、アルスと同じ私の幼なじみだ。

 彼の才能は魔法だけではなく薬学にも精通していて、たくさんの人たちがイアンのおかげで助かっている。

 どうでもいいけど精通って言うの、ちょっと恥ずかしいよね。


 隠しておいた甘味を再びテーブルに広げて、今度はイアンをもてなすお茶会にする。

 部屋の中にくっきり魔法陣の跡が残っちゃってるけど、もう引っ越す家だからいいよね?


 ちなみに、さっきまで威嚇していた元邪竜のおっさんは、私が受け取ったものが豊胸クリームだと知り「そこまで悩んでいたとは……俺のために……くぅっ!」と都合のいい勘違いをしていた。

 面倒だから、そのまま放っておくことにする。


 イアンは上品な所作でお茶を飲むと、私に目を向けてにっこりと微笑む。


「それでオリヴィア、引っ越しはいつ頃になりそう?」


「ジルが家を広くしてくれてるみたいなの。それが終わったらになるかな」


「うーん、急いだほうがいいと思うよ。神殿がそろそろ動きそうだから」


「アルスからの情報?」


「僕が独自に得た情報だよ。アルスは大神官の動きを追っている」


「大神官様?」


 たしか大神官様は今、体調を崩しているんだよね? なぜアルスは神殿じゃなく個人情報を追うの? ストーカー?

 確かに大神官様は男だけど美人だ。細身でちっぱいだからアルスの性癖ストライクなのかな。


「いやいや、アルスはちゃんとオリヴィアのことを考えているからね? 大神官に特定したのは、明らかに奴が妙な動きをしているからだよ?」


 アルスごめん。ロリコンストーカーとか言ってごめん。(ロリコンは言ってないけど)

 妙な動きってなんだろう。確かに大神官様は私にくしゃみさせてうっとりとか妙な行動が多かったけど、それだけでアルスが動いたりしないだろうし。

 ジルベスターが「気をつけるに越したことはない」って言ってるから、大神官様の動向には注意しておこうかな。


「オリヴィアって……ジルベスターさんの意見は素直に受け取るんだね」


「え、そう? そうかな?」


 それよりも引越しを急がないとってやつだよね。

 村に卸していた薬草とか野菜をこれからどうしようか悩んでいると、ジルベスターがさらりと解決しやがった。

 引っ越し先にも畑はあるし近くの森に薬草が生えているから、ちょいちょい転移魔法で村に卸すようにするってさ。イアンだって一日に二回くらいしか使えない魔法なのに、まったく竜族は人間離れしているよね。

 あ、人間っていうか竜族か。


「ヴィー、どうした?」


「なんでもない」


 竜族って、肉体とか色々と高スペックだから、なんかずるい。

 でも私の機嫌が悪いのを気にして、オロオロしているジルが可愛いいから許すことにした。


 ほんと、私の心って広いわぁ……ちっぱいだけど、でっかいの持ってるわぁ……







 イアンからの提案で、ジルベスターの住処にすぐ転移するのではなく、いくつかの場所を経由して向かうことにした。

 魔法は便利だ。でも、イアンの所属している魔法研究所では、魔法の痕跡で個人を特定できてしまうらしい。

 歩いたり馬を使ったり、ジルベスターが魔法を使ってはイアンがその痕跡を消したりとかして、かなり複雑な旅路を行く私たち。


「魔法の痕跡が分かるとか消せるとか、一般的には知られていない情報だよね?」


「そうだよ」


「……えっと、そんなこと言っていいの?」


「オリヴィアと僕とアルスは一心同体、大事な幼なじみでしょ?」


「イアン……!!」


 ジルベスターのほうから冷たい空気が流れてくるけど、今は無視する。優しい幼なじみは私をいつも心配して守ってくれているんだ。


「それに、僕はオリヴィアの成長を見守る義務があるからね。その愛らしいささやかなものが、どこまで大きくなるのかを」


「ささやか言うな」


 こんな頭脳明晰で爽やか好青年のイアンだけど、実はバカがつくほどの巨乳好きだ。

 しかもたゆんたゆんなお姉さんたちを取っ替え引っ替えタラし込んでは、短い付き合いで別れることをくり返している。

 あとくされなくやっていけているのは、彼のもつ天性の才能だろう。魔法の才能はその次くらいだ。


 イアンは自身を『孤高のおっぱいハンター』と称している。巨乳ハンターではないらしい。


「小さすぎるのはアレだけど、僕は基本おっぱいに貴賎はないと思っているからね」


「貧しいおっぱいで悪かったな。祈って天罰くだすぞ」


 私が地獄の底から響くような声でイアンに呪いの言葉を吐こうとしていると、美少年エルヴィンが小首を傾げて問いかける。


「イアン殿は巨乳好き……それならば父上もですか? 見事な雄っぱいを持っておりますよ?」


「ああ、ごめんね。僕はどちらかといえば異性のほうが好きなんだ。同性ならせめて雄雄(オスオス)しいのは避けたいところかな」


 にっこり微笑むイアンがさらりと同性もいけると言ったような気がする。

 付き合いの長い幼なじみの新たな一面を垣間見た私は、そっと触れずに流すことにする。同性なら君みたいなのがいいなぁとか言って、エルヴィンに色っぽい視線を向けたりとか私は見ていない。知らない。タグは付いていない。


 なんだかんだで、私たちは王都の南の隠れ家から、かなり南にある海を越えて進むのだった。





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