4、あの時◯◯された◯◯です。
なぜか抱きしめられたまま、首すじをスンスンされている私。
いや、何、どういう状態なのこれ。
色気ダダ漏れのオッサンに抱きしめられるというのは私得かもしれないけど、スンスンされるのは謎すぎる。
「え、もしかして変態?」
「変態はするが、ここでは狭すぎるな」
うん。よく分からないゾ☆
泥だらけのまま抱きしめてくるもんだから、服が汚れるなぁと思ったら一瞬で綺麗になった。
「え? なにこれ、魔法?」
「うむ。この小屋にかけられている状態を保つ魔法が作動したんだろう」
「状態を保つ?」
「食物や生きているものには効かないようになっている。小屋の中のものは掃除や洗濯をしなくてもいいようになっているのだ」
「ああ、だからシーツとか洗濯してもあまり変わらなかったんだ」
「一日三回作動するようになっている」
「へぇ、すごいね」
えーと、とりあえず抱きしめられたままなのは、なんでだろーう?
ペチペチと褐色の逞しい腕を叩き、離してと無言で主張すれば渋々腕を解いてくれた。
「なぜだ」
「なぜって、こっちが聞きたいよ。初対面のオッサンに抱きしめられる意味がわからないよ」
「初対面ではないだろう。あんなに激しく俺の敏感な所を突いておきながら」
「どこのびーえるなのよ。私、女ですけど」
「女なのは知っている」
「敏感な所はともかく、私たち会ったことがあるの?」
こくりとうなずく彼は、自分のシャツのボタンを外して胸元をはだけて私に見せつけてくる。
なんのご褒美だ。こちとら禁欲生活長いんだからやめてくださいありがとう。え? 違うの? なんだ、見ろってことか。
よく見れば鎖骨と鎖骨の間に、褐色の肌が白くなっている部分がある。傷跡かな?
「初めてだった……でも、お前なら俺の全てを捧げてもいいと思った」
「重いよ。そして私が処女を奪ったみたいに言わないでよ」
「番(つがい)を亡くし、暴走する俺の心を取り戻してくれた。お前が俺の唯一だ」
「……は?」
番(つがい)という言葉に、私は「まさか」とおののく。そして、彼はその「まさか」を告げた。
「あの時、お前が投げた短剣で俺は正気に戻った。だから俺は一生お前のものだ」
「はぁあああああ!?」
邪竜ぅっ!? 生きとったんかいワレェ!!
「あの時、討伐された元邪竜のジルベスターだ」
「はじめまして、オリヴィアです」
「だから、初対面ではないだろう」
「あんなケモノ丸出しの状態で戦ったのが初対面とか、あり得ないでしょう」
「言葉が固いな」
「一応……知り合いのお父様なので」
「オリヴィア……いや、ヴィーは俺の息子と知り合いなのか」
なにこのオッサンいきなり愛称で呼んでくれちゃってるの。まぁ、それはともかく。
元邪竜のジルベスターは、番(つがい)である奥さんを亡くしてから徐々に邪竜へと変化していった。
当時息子であるエルヴィンが抑えていたものの、三年前とうとう完全に邪竜化してしまう。
竜族から人族へ救援要請が送られたんだけど、その時の使者が邪竜となったジルベスターの息子エルヴィンだったんだよね。
あの時は泣いたよ。親を殺してくれなんて悲しすぎるって、アルスとイアンも同情しちゃってさ。
邪竜の波動は竜族を狂わせるんだよ。人族が大丈夫なのかっていえばそうでもなくて、私みたいな体質じゃないと……ん? ちょっと待ってよ?
「あの、エルヴィンに会ったんですか?」
「息子か? いや、会ってはいないな。目覚めてすぐ、お前の匂いを追ってここに来たぞ」
「馬鹿野郎かあああああ!!」
知り合いのお父様というのは頭からすっぽりと抜けて、容赦なく元邪竜のオッサンの後頭部を引っ叩く。
ぐっ、竜族の頑強な体によって叩いた私の手の方が痛い……こっそり癒しの力を発動させておきながら内心頭を抱える。
どうやらこのオッサン、世界を揺るがしたあの騒ぎを「ちょっと酒を飲みすぎて暴れたみたいだけど記憶がないやテヘペロ」程度にしか思っていないらしい。
いやいやおかしいでしょ。私に会いにくる前に色々やることあるでしょ。
「何を言うのか。俺の命を捧げるお前以上に大事なものはなど、この世にあるわけがない」
うん。それ男性から言われてみたい台詞トップ10に入るやつだよ。うん。
でもそれって、世界を破壊しようとした元邪竜の台詞としては、残念極まりないよね。
つか、めっちゃ大変だったんだから。アルスとイアンも超がんばったんだから。マジで。
「オリヴィア……どうか、俺の心を、すべてを受け取ってほしい」
私の前に片膝をついて、優しく手をとる美丈夫な元邪竜オッサン。見上げる金色の目は熱く潤んでいて、色香が漏れに漏れている状態だ。けしからん。
さて、どうしようかな。
とりあえず……お腹すいたから、ご飯にしようかね。
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