Drift29 覚悟
「回りくどい事はもう言わねぇ。お前らの記憶は相当ドギツい。普通なら精神崩壊したっておかしくねえし、カイトに至っては……」
うぐ……言いにくい……
「おねえさん、お願いです。はっきり言って下さい。後で知るよりおねえさんから聞きたいんです」
「分かったよ……オペレーター、出てきてくれ」
『計画は前倒し、ですかね』
「ああ、話す内容が間違ってたら訂正頼む」
あの資料、そこに記されていた全てを話す。カイトとヴェインの過去、処遇、存在。筆舌に尽くしがたいであろう内容を話す。記録とは冷酷で残酷な刃物だ。そのまま読めばダメージはデカい。だが私が先に受けといてやる、その刃先を、刀身を。私を通してへし折りナマクラにしてやれば少しはマシになる。そうしてやるに足るのがこの二人だ。
順を追って丁寧に話す。私は大雑把だがこれくらいは丁寧にやる。多分この二人だからだろう。
――
「以上が資料にあった全てだ」
「……」
「ぐ……」
二人の受けたダメージはやはりデカい。表情は暗いし、空気も重い。だが言っておかなければ戻った時は更に酷い。最悪即死コースだ。
「ボク……半分死んでるんですね……」
カイトが重々しく口を開く。そりゃそう思うだろう。意識だけがここにいて、現実の身体は動かせないんだから。
「……助けてやるさ。良い医者知ってる。そいつなら治せる、というより治させる! おい、ドクトル! 聞いてんだろ、出てこい!」
『はは、貴女にはお見通しという訳ですか』
「カイトが助かる確率は?」
『息してますから100%ですね』
「でも、助かってもボクは手足が……」
『ご安心を。最高の義手義足を用意してますから』
「!」
「な、言ったろ? 一緒にログアウトは出来ないけどすぐに起こしてやるから安心して待ってろ!」
「……はい!」
カイトを何とか元気づける。これで良い。そんでこの元気はちゃんとヴェインへ波及する。この場においてカイトが元気になれば全員元気になるし明るくなる。
「私の記憶も大概でしたがカイトくんが元気でいるならあまり気に病む事でもなさそうです。私がここに送られた理由は貴女と戦う事でしたし、それが設定され、施設の奴らに仕組まれた事であったとしてもその設定を喰い、我が物にするだけの事」
「結構な事言うねえ」
「私だって化物ですからね。資料から貴女が証明してくれましたから」
「帰ったら手合わせだな」
「ええ、でもその前に……」
「「飲み会だ」」
おかしいだろ、あんな話の後だってのに飲み会の話してんだぜ、私ら。お互いマジで化物だな。最高最高。
「むー、ボクもまぜて下さいよー」
「ごめんごめん。てかカイトは酒飲めたっけ?」
「知りませんよー向こうの身体の事なんか」
「カイトくん、さっきまで身体の事でどんよりしてたのに切り替え早くないですか?」
「おねえさんが約束してくれたから安心しました! もう完全に任せます。守られる覚悟なら出来てますから!」
『信用されてますね。貴女は』
「私だって信用してんだ。カイトもヴェインも。……無線の向こうのお前らもな」
私は奴らを信用している。
いらんのに毎度毎度ついてくる変態オペレーターも、毎回毎回窮屈な戦闘服作りやがるドクトルも、任務の度に試作品のテスト頼んでくるデベロッパーも。鬱陶しいが信用できる。いや、こいつらくらいしか信用してない。変な話さ。
「よし、こっち側は大丈夫だ。そっちはどうだ? オペレーター」
『前倒しになった分、私には余力があります。カイトくんの義手義足はすぐには間に合いませんが可及的速やかに組織のラボで処置を。装備に関しては施設への再突入に間に合います』
「つまり最初は装備ナシでやれってことだな」
『はい。それから貴女のログアウト情報の偽装は一時間持つかどうかです』
「なるほど」
すると計画はこうなる。まず私がログアウトし、オペレーターがログアウトを偽装、オペレーターの案内に従って、位置の関係上カイトのいる区画へ先に行き回収、次にヴェインの救出。ログアウト偽装は二人にもやる。一気にログアウトさせないのは監視を確実に無力化してから動ける様にするためだ。
そして車を奪い三人で施設外の指定ポイントに向かいカイトとヴェインを回収してもらう。ここまでを一時間以内でこなし、そこから私は武器を受け取り施設へ再突入する。これならば施設側が気づく頃には二人共安全な場所に行ってるし、施設は混乱するはずだから再突入もしやすい。
計画は今から開始だ。
「じゃあ待っててくれ。すぐ迎え行く」
「はい!」
「お気をつけて」
「オペレーター、頼む」
『いきますよ……』
身体が光に包まれる。その光は徐々に強くなっていく。
さあ、
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