Drift28 信頼
話すか、いや、どうする? 早めがいいか? 先ずは前提と保険と張らないとマズいだろう。それからだ。
「「ただいまー」」
「おかえりー」
二人が楽しそうに帰ってくる。今日は面白い事が山程あったからな。並んでる二人はなんか兄弟みたいだ。
「なぁ、二人共。話があるんだ」
話さなくてはならない。先ずは前提と保険。
「なんでしょうか?」
「……ちょっと真面目な話だ。二人はここでの記憶、思い出は本物だと思うか?」
「それは当然ですよ」
「何だかんだ面白いですし」
なるほど。
「じゃあさ、忘れてる記憶とここの記憶は足し算出来ると思うか?」
「当然ですよ」
「忘れてた記憶も自分の記憶ですからね」
自分の記憶だから良くないんだよ……
「もし、忘れてた記憶が良くないものだったらそれは忘れっぱなしの方がいいか?」
「うーん、それは難しいですね」
「しかし思い出さない事には自分が何者か分からないのも事実……」
ジレンマか……
「ちょっと質問変えるぞ? 二人はこの世界から現実に戻りたいか?」
「戻りたい……ですかね。虚構となると自分の本体がどうなるか分かりませんし」
「私もそうですね」
そうなるよな。
「少し意地悪な質問だ。帰る現実は良くないもので、しかも強制的に戻らされる形ならどう思う?」
「う……それは」
「うーん……」
二人の考えは、この世界での記憶は本物で現実の記憶と足し算できる。しかし良くない記憶を戻す事には抵抗がある。この世界から現実に帰る気はあるが、現実が悪いと帰る気にはあまりなれない。
「……当然の反応か」
「おねえさん、言いにくい事実があるんですか? 現実側に」
「貴女の質問からはそんな雰囲気が出ています」
流石に気付かれたか。しかしまだボカシて話そう。直接、あの資料の話は出来ない。窓枠に手を置き、夕日を見ながら話を続ける。
「ああ、先ずは私の意見だ。私は帰るつもり。記憶が繋がってるから今は虚構のこの世界には違和感がある。現実が好きな訳じゃないが、この世界にずっといる気にはなれない」
「まぁ、そうですよね」
「おねえさんが帰るならボクも帰りますよ」
「はは、ありがとな。カイト。それからなんだが、あー言いにくいが実はだな……」
「おねえさん、もう遠回しに言うのは止めて下さい」
言い淀む私の言葉を遮ったカイトの声が静かに響く。なんとなくバレてたか。
「おねえさんが何か隠してるのは分かります。いつものおねえさんならズバッと言うのに今日は言わない。それはきっとボク達に関する記憶の事情が複雑だからでしょう? でも、でも! だからって……ボクを信用してない様な質問は……嫌です……」
カイトの目には涙がある。
「……ボクにどんな事情があったって、ボクを連れて行って下さいよ! あの時みたいに無理矢理引っ掴んでいって下さいよ!」
今まで聞いた事もない声で叫ぶ。
「カイト……」
「ボクは……ボクには……おねえさんしか居ないんだ! だから……だから! ……現実で何があっても、おねえさんが居てくれればそれでいいんだ!! ボクを、ボクをおねえさんが守ってよ!!」
泣きつくカイト。私はハッとする。そうだ、難しい話じゃない。辛い記憶がカイトにあるなら私が傍にいて、抱きとめればいい。辛い事を仕向けた奴も辛い事をさせる奴らも私が捻り潰せばいい。私の力で守ってやればいい。
何者にも庇護欲も何もなかった私が初めて抱いたそれの対象がカイトなら、そうしてやればいいだけの話だ。例えこの感情がゲームシステムに仕向けられた物だとしても、それならそれを喰って自分の物にしてやる。
「……すまねぇ、カイト。私らしくなかったな」
「う……」
泣きつくカイトの頭を撫でて、宣言する。
「カイト、お前は連れていく。守ってやるから安心しろ! 守られる覚悟を決めろ!」
「は、はい!」
泣きながら笑って、カイトはいい返事をする。そうだ、これでいい。
「ははは、カイトくんは凄いな」
「ヴェイン……」
「私もカイトくんと似たような意見ですよ。……私と張り合えるのは貴女だけだ。断られてもついていきますよ!」
「ははっ、言うねぇ」
「勝ち逃げされては最悪ですからね。それに貸したポーカーのツケが残ってます」
「げぇ、それを言うかよ」
はぁ、全くこいつらは。私の苦労を返してくれ。
まぁでも、これくらいの方がいい。これなら遠慮なく行ける。
然らば! 予定は前倒しだ!!
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