Drift27 実感
翌朝、やはりスッキリとはしない目覚めか。とにかく下に降りよう、朝飯だ朝飯。
「ふあーあ、おはよーさん」
「今日は遅かったですね」
「ご飯出来てますよー」
ココ最近の変わらない朝。二人は動揺を隠していつも通りにやってる。やっぱ言わなきゃ、だよな。そう思ってたらヴェインが話を切り出した。
「しかし、ここが作り物の世界だとは……」
「意識しなければ作り物だと思えない……というか意識しても実感無いです」
「まぁ、そうなるよな。向こう側の記憶ある私でも実感湧くまで時間かかったし」
二人はまだ実感すら持てていない。ここが虚構、作り物の世界だとは思うに思えないのだ。オペレーターが話してくれたんでまだマシだがな。
多分、今の段階で二人の記憶を伝えてもパニックにしかならない。いや、どれだけ上手くやってもパニックになるのは必至だ。せめてここが虚構であると認識していなくては。
「あー、そうだ。作り物だって分かりやすくする簡単な方法あったわ」
「え?」
「まぁ、見ててくれ。……オペレーター? いるか?」
『はい、何でしょう?』
「この部屋、模様替えしてくれ」
『なるほど。では……』
オペレーターの合図と共に、部屋全体が光りだす。そして、モザイクのピースを入れ替える様に周囲が動き部屋は現代チックなものになった。
「す、凄い」
「魔法でもこんな事はできませんね……」
『少しは実感が持てるかもと思い、こちら側の装いにしてみました』
「……ていうかなんか散らかってません?」
「あ、空き缶がそこら中に……」
「なんというか、その雑多というか」
「見た事ないけど知っている感覚が……」
『なかなかリアルでしょう?』
「リアルって言うかコレ、誰かさんの部屋ですよね」
「ええ、空き缶といい、散らかった袋といい……」
あ、これ、アレだ。私がよく見てたヤツだ。オペレーターめ、やりやがったな。
「おい、オペレーター! なんで私の部屋を映したんだよ!!」
『だって、貴女の部屋ならそちらにもありますから嫌でもこちらとの繫がりを感じるでしょう? 二人にとっては貴女がこちら側との唯一実感のある接点なんですから』
「くっ、言い返せねぇよ……」
チクショー! ハメられた、まさか自分の部屋、しかも片付けてないのを映されるとは。恥ずかしくはないがこんな事をよくもまぁ……
「ははは、確かにこれなら実感もありますね。他の何を見るより分かりやすい」
「うーん、向こう側へ帰ったらおねえさんの部屋を掃除しないと……こっち側の散らかり方より酷いです」
「二人してそんなに言うなよなぁ」
なんてこった。私の部屋で実感を持たれるとは……確かにリアルっちゃリアルだけどさぁ。
あーあ、私の計画台無しだ。ホントは失敗作狩りに行って、その時にゲーム的な表示(ダメージの数値化とか)を出したり、ファストトラベルシステムをオペレーターにやってもらったり、装備の早着替えしようとしたんだよ。それよりも私の部屋で向こう側の実感をすぐに得られたんだから酷い。
「はーあ、まさかこれ一発とはなぁ……」
「他には何かあるんです?」
「あー、もうなんかやる気ないわ……」
『そんな事言わずに』
「おめーのせーだわ。はぁ、私の装備マイセット出してくれ。二人の分も」
『了解です』
この後色々やってみたが、私の部屋が一番説得力あったらしい。
なんで失敗作へのクリティカルダメージエフェクト派手さとか、私らのHPMPが頭の上に見えたりとか、ファストトラベルで東西南北を行き来したのよりも、この世界が作り物のゲームで向こう側と繫がってる感出るんだよ。
――
夕方、二人は買い物で席を外している。なんだかんだあったが礼を言おう。
「オペレーター、すまんな」
『らしくないですね。雪でも降りそうです』
「ふん」
オペレーターが私の部屋を映したのは、面白半分なのは勿論だが他の意味もある。それは「あの方法が一番早く確実だった」ということ。私は後から気がついた。確証はないにしてもその事実にいち早く気が付き、それを戸惑いなく実行するあたりはコイツも化物かもしれん。
『……記憶の件はいつにするんです?』
「ああ、それか。今日か……いや明日か明後日には……遅くても一週間後にはやらないと」
『一ヶ月なら何とかできますが』
「それはダメ。幾らお前でもこの状態を一ヶ月は無茶なのは分かってる筈だ」
『……』
今回は脱出と襲撃にどうしてもオペレーターのサポートが無いと無理だ。悔しいがな。二週間という期間は余裕をもたせただけで本当は前倒ししたい。このゲームへの秘匿アクセスと通信の暗号化、カモフラージュだけでも相当なリソースとオペレーターの体力がかかってる。多分寝てない筈だ。
「お前に無理言ってるのは私だが、大体どんな手使ってるかは想像つく。何本使った?」
『まだ、二本ですよ』
「……そうか。こっちも急ぐ」
『了解』
クソッ……今日、やるか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます