Drift26 記憶

「故郷がない……?」

「そうだ、私にも記憶が……」

 ヴェインも気づいたらしい。このままだとパニックになるし、現にカイトはパニック気味だ。ヤバいヤバい、早く説明しないと。

『故郷がない、とは言いましたがそれはその世界での話です。貴方がたは困った事にその世界に入ったこちら側の存在なんです』

「え、じゃあボクはおねえさんと同じ世界にいたんですか?」

「という事は私も?」

『はい。こちら側から施設にハッキングして貴方がたの肉体がどこにあるかは突き止めました。こちら側へ戻れば記憶も戻ります』

 そう、二人共記憶を隠されている。そして私と同じくカプセルの中で眠ってる訳だ。んでその実態は、記憶を抜いたり消したりは出来んかった様で装置に繋がってる間は本当の記憶がマスクされてる状態、との事だ。


 それにしたってオペレーター、やっぱ変態だな。私が頼む前にぜーんぶ片付けてやがった。私とカイトとヴェインの肉体の所在、この世界のシステム諸々調べ尽くしてる。

「お前、やっぱ変態だな」

『褒めてます? 貴女と通信が途絶してからそっちの施設を徹底的に調べたんですから』

「ファイアウォールがまるで紙だな」

「……あの、なら質問が」

「どうした? カイト?」

「おねえさんは何でんです?」

『あー、それはですね……』

 カイトへの返答。それは至極単純だった。私の記憶はマスクすら出来ないくらい強固で異色な物だったらしい。資料によれば瞬間分だけ錯覚はさせられたんで爆発事故が起きた事にしたんだと。

 しかし上手い錯覚だ。爆発事故なら装備が消えてても不思議には思わないもんな。


「今日は何だか突拍子もない話が多すぎて……」

「ボクもふらふらです」

「あー、そうなるよなぁ……」

『とにかく、貴方がた三人をログアウトさせる事は可能ですので話がまとまったら通信を入れて下さい』

「そういやハッキング、バレてないのか?」

『当たり前です。バレてたらこんな悠長に話なんかせず、三人とも強制ログアウトですよ』

「……何日騙せる?」

『そちらの時間で三日程度です』

「わかった……助かるよ」

『では、後ほど。資料は転送しておきます』


 通信が切れる。二人共ぐったりだ。ヴェインはまだマシだがカイトはもうぐるぐるマークが目に出てるかの如くだぜ。

「すまんな、いきなりこんな話になって」

「いえ、しかし重要な事が一つ……」

「なんだ?」

「あの失敗作の情報は何だったんですか?」

「あ、すまん。えーっとだな、あれは私を消す為の刺客だ。私をこの世界で消して、データを取るつもりだったらしい。だから私が来た瞬間に湧いたのさ。もっとも、不自然さをなくす為にゲーム的に湧かせたけど」

「??? それは変ですよ。貴女のデータが欲しいならあちら側で取ればいい。それに貴女は眠らされてるんだから……」

「あー無理無理。あっち側の奴らじゃ私のデータなんか取れん。私、本気で動かねぇから」

 アイツらが欲しいのは私の本気の戦闘データ。あるいは本気でなくとも八割程度の力。でもまぁ私がそこまで力を出せる程の相手なんか奴らは用意出来ないからゲーム世界に私を入れて、そっからデータを取るつもりだったんだろう。ま、目論見は失敗だかな。この世界にすら私を超える様な敵を奴らは用意出来なかった。それだけだ。

 この世界の作りが上手いのは認めてやる。


「ああ、それからここが向こう側と繋がってるって思ったきっかけがある」

「?」

「カイトがこの前、『箸が進む』って言ったろ? この世界、少なくともこの街には『箸』なんてない筈だ。だからカイトのどっかに向こう側と接点があるかもと思ったんだよ」

「そんな些細な事から……」

「ま、結果的にはって部分が多いけど」






「さて、とりあえず会議はお開きだ。暫く休んだ方がいいかもな」








 会議室から出て、各々部屋に入った後、私は資料を見る。

「……チッ、やっぱりか」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る