Drift9 試験

「よっしゃ、全部覚えたわ」

 思いのほか簡単で二十分で終わった。とりあえず暇なんでカイトから本を借りて読む。

「おねえさん、本当に凄いです……」

「まあな、これでカイトに頼りきりでもなくなるし良かったよ」

 そんな風に話していると何やら取り巻きをつれた大男が目の前に座った。むさ苦しいからやめてくれ。

「おい、お前、受験者か?」

「そうだが?」

「その面だと初めてみたいだな」

「それが?」

「なら残念。今回は俺も受験する。お前にAランクは取れない」

「……」

 くだらねぇな。相手にもしたくねぇ。だがな、言ってくる以上は覚悟してもらう。

「喧嘩売ってんのか。デクの棒」

「んだと! てめぇ! 訳わからん事言ってバカにしてんのか!」

「兄貴! 落ち着いて下だせぇ! ここで事を起こしたら……」

「ぐっ……! まぁいい。覚えてろ!」

 捨てゼリフもショボいのなんの。まぁ目の前から消えたから良し。カイトとの時間を邪魔すんじゃねぇ。

「あぅあぅ……おねえさんが強いのは分かりますけどヒヤヒヤしました……」

「ん、ごめんよ。ちょっとばかしウザくてな」

 危ねえ危ねえ、カイトをビビらせたら可哀そうだ。慎重にいかねぇとな。

 と、そうしてる内に試験開始のアナウンスが来た。さて、行くかね。

「んじゃ、行ってくる」

「頑張って下さいね」

 ふおおおお! カイトの応援、しかも笑顔付きときた! コイツぁヤベぇぜ。受かるしかねぇな。


「では第一試験、筆記を開始する! 出来た者から次の会場に行く様に」

 席に着くと試験官の声が響く。問題を見れば何ともお粗末な問題ばかりだ。歴史やら何やらが来るかと思えば戦闘術やらそんなんばかりで歯ごたえはまるでない。試験時間を半分以上余らかしたが最初に出るのも目立つんでボーっとしてたら最後になっちまった。ま、構わん構わん。


「では次、第二試験を始める! 最初に出てきた者から順に十の石柱を制限時間内に思い思いに攻撃せよ!」

 はー、ダミーをブッ壊す試験か。よくやったなぁ。私は最後なんで他の奴らのやり方を観察するが、中々面白い。

 短剣で上手く破壊する奴、魔法でブッ飛ばす奴、ハンマーで叩き壊す奴、素手で吹っ飛ばす奴、などなど色んな奴がいる。流石にサバイバルナイフ一本って奴はいなかったが。それにしても面白かったのは見た目が普通の剣なのに石柱を綺麗に真っ二つにした奴だ。石を切るってのは大変だろうがよくやるぜ。しかもこの石柱、すぐに元に戻るからそれも面白い。

 そういやあんまり上手くいってなかった奴は落ちたのか帰っていったな。

 んでもって私の番だ。うーん、素手は他の奴がやったから微妙だな……

「おい、アイツ全然動かねぇぞ」

「まさか試験放棄か?」

「まぁ、仕方ないわよ。筆記も最後だったし……」

「やっぱり奴は受からねぇな」

 やいのやいのと外野がうるさい。それにあのデクの棒にだけは言われたくねぇ。壊し方が誰より汚かったし。まぁ、外野は黙らせるか。

「制限時間は残り僅かだが放棄するのか?」


「放棄なんざするかよ」


 言ってからすぐ跳び上がり、石柱全てに鋼糸をかけ、地面から引っこ抜いて放り上げた後、思い切り叩きつけて全部粉々にしてやった。

 轟音の後、土煙を手で払いながら開始位置に戻る。

 失敗作共より手応えねぇな。


「な、何が起きた……?」

「お、おい、石柱が再生しないぜ?」

「魔法か? いや魔力なんて欠片も……」

 相変わらずうるさい外野だ。こんなモン珍しくも何ともないだろ。仮にも冒険者志望ならな。

「まぁ、こんなモンか。試験官、次は?」

「あ、はっ! つ、次はトーナメント式の試験になる! 各自休憩の後、一回戦はこちらが指定した者同士で戦い、優勝者にAランク冒険者証を与える!」






 なるほど、まぁ楽しみに……なるのか?

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