12.初めての生体の死
2本目の水槽は、水草を維持しながら生体を飼育するというコンセプト。要は実際にありそうな川底の風景を再現したかったのであり、この路線は以後のわたしの水景作りに強く影響を残すことになる。拙作『アクア・デイズ』のW主人公の一人・琴音の水槽がそのようなものであることからも、わたしの川底レイアウトへの傾倒が窺い知れよう。
しかし、このときばかりは失敗だった。
たしかに大磯砂で水草をキープすることはできた。が、重要なのは生体がウーパールーパーであり、水槽が60cmレギュラーであったことだ。
ウーパールーパーの餌は沈下性の合成飼料である。褐色の小さなタブレットだ。まだ10cmそこそこの生き物が60cm水槽の底を探し歩くのでは効率が悪すぎると思ったので、1本目の水槽では「スポイトの先端に餌を吸着させ、直接ウパの鼻先まで持っていく」という手法をとっていた。いかに視力の悪いウパといえど、このやり方であれば流石に食べ逃すことはない。
ところが、レギュラー水槽には高さがある。
所持しているスポイトの長さが足りず、底まで餌を届けることができなかった。
それだけなら水槽に手を突っ込めば何とかなったのだが、水槽内には水草が生い茂っているわけで、それらを避けながらウパの眼前に餌を突き出してやることは難しかったのだ。
そこで餌を底に落とすことにしたのだが、やはり効果的ではなかったようだ。ウパが餌を見つけられないことが増え、残りっぱなしの餌は水質悪化の原因となった(当時のわたしは会社員だったので、四六時中水槽を見ていることはできなかった)。
結局、2匹目のウパは1ヶ月ほどで死なせてしまった。
設備と生体のミスマッチ、レイアウトの失敗。悪手が重なると命はたやすく失われてしまう、ということを思い知る体験であった。
ちなみに、ウーパールーパーが病死した際の姿は酷いものだ。チャームポイントの外鰓が溶けるように縮み上がり、体のあちこちが水カビにやられてくる。
グロ注意指定とかかけたくないのでこれ以上仔細な描写はしないでおくが、二度と同じ失敗はするまいと決心させるに足る絵面になったとは言い添えておく。その甲斐あって……なのかどうかはともかく、ゲーセンで取ってきたほうのウパは体調を崩すことなく生き続けた。
最終的にはそちらもわたしの手を離れることになってしまったのだが(※注1)、現在でも元気にやってはいるらしい。
入手経緯であったり2匹目の末路であったりと、およそ「順風満帆」という言葉とは縁遠かったウーパールーパー飼育。しかし、わたしに水槽の基礎を学ばせてくれたのは紛れもなくウパだ。
『アクア・デイズ』が当初の予想を上回る反響を得ている今、わたしが真っ先に感謝を捧げるべき存在は間違いなく、あの小さな命たちであろう。
◇ ◇ ◇
※注1:会社を辞めるにあたって引っ越しの必要が生じたため。かねてからウーパールーパーに興味を示していた(元)同僚がいたため、彼に譲ることにした。
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