白馬の王子様 ver2.0
「ちょ、ちょっと待って」
このままだと、この少女の勢いでねじ伏せられそうだった。
僕は両手を少女の前に出して、抑えてという意思を示した。
「さすがは、私の白馬の王子様。私を制しようとは」
さらに目を輝かせて、見つめると言うよりも僕に魅入っている。
「君の名は?」
「私のかりそめの名は黒磯真紀子です」
「かりそめ? それってどういう意味で?」
「私の王子様であるあなたにならば、私の本名を教えても構わないでしょう。私の本名は千宮院蘭。千宮院家の次期当主です」
「なるほど、君は中二病なんだね。そんな名前を二つも持っている設定を盛っているだなんて。しかも、なんとか家の次期当主とか謎の設定まで追加しちゃって」
世の中には、こんな人もいるんだね。
厨二病をこじらせちゃって、自分が誰なのか分からなくなった人って。
「信じてはもらえないだろう事は想定内です」
瞳のハートがさらに煌めいたように見えた。
「家の前の通りを見てください。これは、千宮院家お抱えのエージェントの前では、私を拉致して辱めた十本語もこの通りなのです」
「はい?」
エージェント?
十本語?
私を拉致して、って事は……。
「あっ!」
この少女が誰であるのかようやく合点がいった。
山蔵の毒牙にかかって、下着姿で床に転がされていた五人の少女のうちの一人だ!
だから、明神輝里を知っているのか。
「ようやく分かっていただけましたか。もう一度言います。通りを見ていただければ、なお分かっていただけます」
「何が……」
僕は千宮院蘭の横をすり抜けるようにして家の前へと出て、唖然とした。
僕の家の前の通り、十一の十字架のようなものが立てられていた。
「これは……」
それが磔柱で十一人が磔にされている光景であった。
作法に則って、男は大の字に、女は十の字に固定されていた。
「十本語?」
街灯に照らされていて、その十一人の顔がうっすらとだが見えている。
四人ほどは名前を聞いているだけで顔を見た事がないため確証はないが十本語の十一人だった。
世紀末リーダー清音など見知った顔があった。
だが、全員意識がないのかぐったりとしていて、指一つさえ動かしてはいなかった。
「千宮院家お抱えのエージェント達の前では赤子のようなものです」
「いや、僕と万次郎がどいつもこいつもHP0にしていたはずだから、君のエージェントとやらは『もう止めて! 十本語りのHPはもう0よ!』状態だったんじゃないかな? そんなのを倒したところで自慢にもならないよ」
僕は磔にされている十本語の人達を見るのが耐えきれなくなって、背後にいる千宮院蘭と向き合った。
「でしたら、これで分かってもらえますか? このように道ばたに磔をしていたとしても、私達、千宮院家には物を申すことをできる者はいません」
「それよりも、僕の家族が誹謗中傷にさらされるような事になりそうだから止めて。今日の朝だって、裸の男達が寝ていたとかで変な噂になっていたそうだし」
あれは、僕がやっちゃったんだけどね。
あの時は放置するしかないと考えたけど、よくよく考えてみれば、超能力を使って裸の男全員をどっかに飛ばせばよかったんだよね。
そうすれば、変な噂が立たなくて済んだのに。
近所のおばちゃんが言っていたんだ。
『桑原さん家が露出狂の男達の集会場になっていたんですって! なんでも、桑原さん家に露出狂の教祖様がいるから集まっていたとか言っていたわ! 怖いわね!』
誰だよ、露出狂の教祖って!
僕が露出する喜びを皆に教えている伝道師みたいな感じじゃないか。
「では、この者達をすぐに処理しましょう。この者達の末路は東京湾に沈めると決まっています。千宮院である私に手をかけた以上、万死に値します」
「そういう怖い事を言うのはちょっと……ね? 許してあげてよ」
「王子様がそこまで言うのでしたら、命を取らずに解放しましょう」
東京湾に沈められると聞いたら、なんか夢に出てきそうじゃないか。
そういうのをさらっと言うのは正直止めて欲しい。
裏の権力者かもしれないけど、あまりよくはない事だよね、うんうん。
「そうしてもらえると助かる」
僕はホッと胸をなで下ろす。
「……というか、何故に王子様なので?」
千宮院がどんな家柄なのか、どれだけの権力を持っているのか僕は知らない。
でも、そんな大層な人物が何故僕を『白馬の王子様』と呼ぶのだろう?
「王子様は千宮院家が抱える数多のエージェントよりも早く私を助けてくれたのがその理由が一端です」
「モブ子を救出すべく行っただけであって、君を助けに行ったワケじゃないんだけど」
そこにたまたま居合わせたと言うべきか、偶然にも巻き込まれたといったところだ。
「ええ、それは理解しています」
「なら……」
「私は全てを見ていました。王子様が十本語と名乗る者達を瞬殺する姿を。そうして、明神輝里さんを救い出した姿は白馬に乗った王子様そのものでした」
「それって君には白馬の王子様でも何でも無いよね?」
あれ?
なんだか妙だな。
「ええ。輝里さんにとっては白馬に乗った王子様です。ですが、私にとっては白馬の王子様です」
この微妙な表現の違いは何なんだろう?
僕が小首を傾げていると、
「あの時の王子様の姿を目の当たりにして、私の子宮がキュンとしてしまったのです。そして、濡れてきてしまいました。この意味が分かりますか?」
千宮院蘭の頬が幾ばくか赤らんでいるようにも見受けられる。
「よく分かりません」
言葉の意味が理解できない。
ただの変態趣味の告白か何かなのだろうか?
「あなた様の子供が欲しいと思ってしまったのです。ですから、あなた様は私の白馬の王子様なのです」
えっと、それって……。
僕が種馬って事なので?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます