『流石ですわ、お兄様』と褒めてくれる妹が欲しかったけど、何故か自称張飛の生まれ変わりの弟が養子で来て『さすがだ、兄じゃ!』と褒めてくれるようになった件について
ハートマークの瞳を持つ少女 ver2.0
ラストワルツ
ハートマークの瞳を持つ少女 ver2.0
午後七時くらいが夕ご飯の時間なのだけど、モブ子が帰宅したのは午後八時くらいだった。
モブ子の帰りを待っていた僕はリビングルームにいたのだけど、ドアを開けて入って来たモブ子は何故かジャージ姿で、若干やつれた様子が目元から窺えた。
そして、僕の顔を見るなり、
「終わっていたのなら、手伝いに来てもよかったのに何故来なかったの?」
僕にでも分かるくらい皮肉を込めた口調だった。
「すぐに戻ってくると思っていたから……」
「正直言わせてもらえば、兄じゃがいる方が話がややこしくなったはずだから、いない方が良かったのよね。警察に届け出たり、同級生を送り届けたりで大変だったのよ」
「そこまでやっていたのか。僕もいるべきだったか」
「ホント、兄じゃは無責任のクズ野郎ね。それについて説教してあげるからここに正座なさい」
この件については僕も反省しないと思って素直に従って正座した。
「……兄じゃが私よりも先に戻っているのだから、当然終わったのよね?」
「とりあえず、残りの十本語の三人は倒しておいた。それに、こんな騒動をもう起こさないと約束させたから十本語騒動は一件落着かな?」
今日は一日がとてもとても長かった。
一日で十本語全員と戦っていただなんて嘘のような本当の話だ。
しかも、今日だけで十本語とかいう人達の野望が潰えてしまったのだから世の中分からないものだ。
野望というべきか、一部は個人の欲望を叶えるための手段として使われていたようなものだったけど。
もちろん僕が叩きつぶしたのだけど。
「お兄様が敗退したのに、何故兄じゃは勝てたの? 不思議な話よね」
「僕が圧倒的だったからじゃないかな? それにね、結論しては、先手をとりさえすれば楽勝なんだよね」
錬金術師のE子、世紀末リーダー清音も、本領を発揮する前に叩きつぶしてしまった。
錬金術を見てみたかったけど、錬金術を発動させるのに数分かかるようだったので、発動前に本人であるE子とやらを潰してしまった。
侍と思いきや守護霊使いらしき清音は守護霊の間合いに入る前に叩いてしまった。
残りのサイキッカーかおりんらしき女もついでに倒しておいた。
僕のような超能力者とは異質な、ただの変態みたいな人だったけど。
サイキッカーかおりんはおいておくとして、超能力さえ使えば大した相手ではなかった。
逆に言えば、万次郎のようなパワー系とは相性の悪い相手なのは確かだった。
「……兄じゃが卑怯者という事でいいの?」
「不服だけど、そんな認識でいいと思う」
普通の人が使えない超能力を使えて、それで戦っていたのだから卑怯者という認識でいいのかもしれない。
卑怯と言うべきか、チートと言うべきか迷うけど。
「もう終わった話だし、それはいいとして、モブ子はご飯食べたの?」
モブ子が帰ってきたら一緒に食べようと思っていたので、まだ僕は食べてはいなかった。
「まだだけど、用意してあるの?」
「出前でも取ろうかと思っていたんだ。今日は疲れたからね。たまには贅沢とかしようかなって」
へそくりがまだまだあるし、お寿司をおねだりされても大丈夫だ。
「贅沢してもいいというのなら、そうね……」
モブ子が嬉しそうに口元を綻ばせながら思案顔を浮かべる。
その時だった。
玄関のドアが勢いよく開いた音がして、ドタドタと騒々しい足音が聞こえてきた。
襲撃か?!
咄嗟に身構えるも、
「兄じゃ! ご飯はないか! 病院の飯が少なすぎて抜け出してきてしまったわ!!」
リビングルームのドアを勢いよく開けて中に入ってきたのは患者衣姿の万次郎だった。
「その姿のまんまで抜け出してきたの? よく不審人物として通報されなかったね」
「がははははっ!! 俺の人徳のなせるワザよ!」
「まあ、いいか。抜け出してきたのなら、また戻ればいいし」
「病院になど戻る必要などないわ! この程度の傷、唾を付けておけば治るというものよ!」
「意識が二回ほど飛んでいた人が何を言っているの? 出前取るから、それ食べたらちゃんと病院に帰るんだぞ、万次郎」
「さすだが、兄じゃ! 恐れ入ったわ! 俺の怪我の状態まで把握しておるとは!」
万次郎が豪快に笑い、リビングにその笑い声が響き渡った。
「私はお寿司」
僕の万次郎の様子をそっと見守っていたモブ子が頃合いを見計らって、夕食の提案を口にした。
「俺はピザじゃ! 十人前くらい食べたいのう!」
「そんなに食べるの?!」
万次郎なら食べそうだ。
「俺に食べられん事はない!」
「なら、残したら罰ゲームね」
「あいや、分かった!」
お寿司とピザか。
僕のへそくりでなんとかなるか。
「して、兄じゃ」
万次郎が改まった様子でそう語りかけてきた。
「何故、正座をしておるのだ?」
「ちょっと説教されていて」
モブ子に、ね。
「こら! キラ! お前こそ、正座をすべきであろうが! 兄じゃは尊い人物なのだぞ! そのような人物に正座をさせるなど無礼であろうが!」
万次郎が鋭すぎる刺すような視線をモブ子に送るも、モブ子は微笑みを万次郎に返すだけでさらりとかわした。
「万次郎。僕が悪いんだから仕方ないんだ」
「……兄じゃ」
その一言で勢いを削がれた万次郎に対して、モブ子が勝ち誇ったかのように声を出さずに笑う。
「さて、さっさと出前を取ろう。こうしている間にお店が閉まっちゃうからさ。お寿司はもちろん職人さんが握る寿司でいいよね」
僕はお寿司を三人前、それと、ピザを十二人前注文した。
これなら、みんな平等に食べられるだろうし。
「して、兄じゃ、俺達を襲った奴らはどうなった?」
出前の電話をし終わると、万次郎が真剣な眼差しで訊ねてきた。
「ああ、終わったよ。全員ぶっ倒しておいた」
「さすがだ、兄じゃ! あの侍も当然倒したのか?」
バトルものの主人公でもないのに、僕はどうして戦いばかりしていたんだろう?
最後の方は面倒臭くなって、さっさと終わらせてしまったが、あれで良かったんだろう。
降りかかってくる火の粉を振り払った程度の認識ではあるんだけどね、僕的には。
「俺が勝てなかった相手を討伐するとは、さすだが、兄じゃ! 俺にはできない事を平気でやってのける! さすがは乱世の英雄じゃ!」
「いやいや、今は乱世じゃないし」
「そうであったな!」
「でも、あんな連中が出てくるような世の中になっちゃっているなんて怖いよね」
あんな人達がまた出て来たりするのかな?
また現れたとしても、僕達に絡んでこなければいいんだけど……。
『ピンポーン』
リビングルームに呼び鈴の音が鳴り響いた。
「来たのかな?」
頼んだ出前が意外にも早く来たのだと思って、僕はリビングを出て、玄関へと向かう。
そして、無防備にドアを開けると、そこにいたのは、一人の少女だった。
パーティーに出席するために着るような真紅のドレスを着込んでいて、多少化粧もしているのか、顔がキラキラとしていた。
「……あれ?」
どうやらお店の人ではないようだ。
誰なのだろうか?
でも、僕はこの少女の顔を見知っている。
いつどこで、までかは分からないが、記憶に残っているのだ。
「あなた様が私の白馬の王子様ですね」
目にハートマークが書かれている二次元キャラを相当数見た事がある。
言うなれば、目の前の少女の目がその表現通りの『ハートマーク』の瞳になっていた。
もしかして、ハートマークの瞳をもっているのかもしれない。
熱のこもった視線を僕に注ぎ続けている。
「人違いです」
「いいえ、あなた様の認識は間違っています。あなた様は私の白馬の王子です」
「……そうなの?」
そう断言されてしまうと、そうなのかと思ってしまう。
けれども、僕が白馬の王子のはずがない。
「あなた様が明神輝里さんの恋人である事は分かっています。ですが、私の白馬の王子様でもあるんです」
「……輝里?」
何故、モブ子の名前を知っている?
「愛人でも、遊び相手でも、夜だけのお相手でも構いません。私の……。私の白馬の王子様でいてください」
ハートマークの瞳をさんさんと輝かせて、少女はそう訴えかけてきた。
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