『流石ですわ、お兄様』と褒めてくれる妹が欲しかったけど、何故か自称張飛の生まれ変わりの弟が養子で来て『さすがだ、兄じゃ!』と褒めてくれるようになった件について
十本語騒動 その7 モブ子のワキガ疑惑 ver2.0
十本語騒動 その7 モブ子のワキガ疑惑 ver2.0
「……やったか?」
山蔵を撃破したのを見届けて、僕はホッと一息吐いた。
今の台詞は『やれてない』フラグの台詞だけど、勝利が確定している今なら口にしても何ら問題ないだろう。
「……兄じゃ、何故今その事を?」
そんなモブ子の声が僕の背中にかけられたので慌てて振り返った。
モブ子は立ち上がる事がまだできないのか、女の子座りをして胸の辺りを両の腕で隠しながら、鋭い目つきにして僕に警戒の色を示していた。
「土下座で思い出してさ。僕が焼き土下座で、モブ子が裸土下座を賭けていたよね? で、結局僕が賭けに勝ったんだけどさ」
「……今しろと言うの?」
さらに警戒の色を強めて、僕と距離を取るように身体を少し後ろに引いた。
「そんな約束もあったな、と思い出しただけで他意はないよ」
一つ屋根の下で一緒に住むような状況だというのに、モブ子に裸土下座なんてさせたら、それはそれで『しこり』が残りそうだからしてもらう事なんてできやしない。
「なら、どういう意味なの?」
「特に意味はなかったんだけど……」
ここまでモブ子があの件について引きずっているとは思ってもみなかった。
あのカードをいつか使われるとか想定しているから警戒していて当然なのかもしれない。
ならば、ここはそのカードを消費するとしようか。
そうすれば、モブ子もあの件であれこれ考えなくて済むようになると思うし。
「ならば……」
どうやって裸土下座のカードを相殺しようか。
「山蔵が神の領域の香りと言っていたモブ子の制服の匂いを嗅ぐ事で、裸土下座はなしにしよう。それくらいだったらいいよな」
匂いを嗅ぐ趣味なんて僕にはない。
だけど、そうすれば、カードを消費できるだろうし、やっておこうかな。
モブ子が不安に思っているのならば、今こそ解消してやらないと。
「……兄じゃがそう言うのならば、別に構わないけれども……」
ようやく警戒心を解いてくれたようで、モブ子は僕からようやく目をそらして俯いた。
どんな香りなんだろうな。
山蔵が言う、究極よりも上の香りとやらは。
「モブ子の制服はと……」
山蔵の傍に一着の制服が落ちているのが見える。
最後まで握りしめていたような気がするから、あれがたぶんモブ子のだ。
他の五人の制服が様々な場所に散らばっていて、山蔵から離れた場所にあるので、おそらくはモブ子のものではないだろう。
僕は倒れている山蔵の所まで行き、傍に落ちていたモブ子のものであろう制服を拾い上げた。
「ふむ……」
服を嗅ぐ趣味なんてないけど、僕はモブ子の制服を顔に近づけて、脇の辺りの湿っているところに鼻を向けて、すっと空気と共に匂いを吸い込んでみる。
「……ッ」
ツンと鼻につくような匂い。
思わずむせそうになる、酸っぱいような、鼻にざらつくような奇妙な匂い。
「ワキガ?!」
僕は思わず声を上げてしまい、咄嗟にモブ子の制服を鼻から引き離して、自分の口を空いていた手で抑えてしまった。
なんていうか、芳醇というよりも、僕の臭覚を攻撃して止まない
「臭いっての」
胃液が逆流してきそうな気配さえしている。
こんなのを神の領域だとかなんだとか言っていた山蔵は嗅覚が人と違って相当におかしいと言わざるを得ない。
あんな変態野郎だから、こういう異臭、いや、悪臭が好きなのかもしれない。
僕は汚いものでもつまむようにしてモブ子の制服を本人のところまで持っていくと、
「……ははっ……」
モブ子は顔を引きつらせて半笑いをしていて、僕に訴えかけるような視線を送っていた。
どうしたんだろう?
僕がモブ子に制服を返そうとすると、
「ち、ちげーし!」
モブ子の声が震えているし、いつもの口調とは全くの別物になっている。
柄にもなく、取り乱している?
「私、ワキガじゃないし! ほ、ほら! か、嗅いでみて! あ、兄じゃ! 嗅いでみてもいいから!!」
左腕で胸を隠すようにして右腕を上に挙げた。
そして、脇の匂いを嗅いでもいいと言いたげに見た目は綺麗な脇を僕に見せつけてくる。
「でも、脇の臭いとか興味ないからちょっと……」
モブ子は強く否定しているけど、やっぱりワキガでしたと匂いから判明したとき、僕の胃液が平穏無事である可能性が低いかもしれない。
もしかしたら、モブ子に吐瀉物をぶっかけてしまうかもしれないので、匂いを嗅ぐのだけは避けたい。
「兄じゃ、私の脇の臭い、嗅げないっていうの?」
やおらモブ子は立ち上がり、ご自慢の右脇を見せつけるように迫ってくる。
鬼気迫る勢いなのは、誤解を解きたいだけなのかな?
ワキガという自覚症状がないからそんな強気で出られるとかな?
「私が良いと言っているの。嗅ぎなさいよ。絶対にワキガじゃない」
もう脅迫に近い勢いだった。
俺との距離など計ることなく迫ってくる。
「……あ、ああ」
ええい、ままよ!
ワキガの強力な臭いで吐いてしまったのならば、それはもう成り行きとしてモブ子に受け入れてもらうしかない。
もうなるようになれと思って、目を閉じる。
なるべく空気を目一杯吸い込まないように気をつけながら、モブ子の脇に顔を寄せた。
「くん……くん……」
あれ?
さっき嗅いだような、酸っぱいような酸味を含んだ臭いが僕の嗅覚を刺激しない。
それどころか、無味無臭ぽい感じがするし、シャンプーの匂いらしき甘ったるさが鼻をくすぐってくる。
「……あれ? ワキガじゃない」
「当然よ。私がワキガだなんて誤解もいいところよ」
僕は安心して目を開ける。
すると、視界にあったものは、モブ子の綺麗な肌と脇の下だった。
白い肌の中に青い血管や、脇の下を通る青い血管が目の前に見えている。
しかも、下着では隠れしきれない豊満な胸の一部が目と鼻の先にあった。
見ちゃいけないと頭では分かっているんだけど、胸や脇の下や白い肌にどうしても魅入ってしまう。
こんな感情が出てしまうのはいけない事なんだろう。
僕はそんなモブ子の素肌に触れてみたいと思うようになってしまった。
間近で見てしまうと、吸い込まれそうな柔肌が目の前にある。
触れたら……
「……兄じゃ?」
僕の感情の奔流を感じ取ってか、モブ子の声音に変化が見られた。
「……あ」
モブ子の白い肌が段々と赤みを帯びてき始める。
どういう変化なんだろう?
そう思ってモブ子の顔を見上げると、茹で上がったタコのように真っ赤になっていた。
その朱色が全身へと広がったようにも見受けられる。
「ちょ、ちょっと!」
「ふごっ?!」
モブ子は挙げていた右手を下ろすなり、僕の顔に右手を当てて、自分から遠ざけようとぐりぐりと後方へ後方へと押しやろうとしてくる。
「む、胸まで見ていいなんて言ってないわよ」
ぐ、偶然だから!
魅入っていたのは、偶然だから!
胸の一部を露骨に見ていた事をモブ子に知られるのは不味いと思ってか、そんな言い訳とかを口にすることができず、なされるがままにされていた。
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