モブ子の下着 ver2.0
何か妙な音がしたような気がして、僕は目を覚ました。
「……なんだろう、今の音は?」
時計を見ると、午前五時半頃で、この時間だとみんな寝ているはずなんだけど。
窓の方を見ると、もう朝ぼらけといった様子で、ほのかに明るくなっている。
「見に行った方がいいのかな?」
食事が終わった後も、モブ子は熟睡してしまっていたようで全然起きなかった。
そっとしておこうという話になり、あのままリビングルームで寝ているはずだ。
「……モブ子か?」
見に行くのは億劫だと思って、超能力『サーチ』で確認すると、お風呂場の脱衣所にある洗面台のところに人の気配があった。
透視能力でのぞき込むと、モブ子が顔でも洗っているのか、洗面台のところで何かをやっていた。
「みんな寝ている今がチャンスかな?」
昨日あんまり話せなかったし、この家に泊まったりしても大丈夫だったのか確認しておかないと。
男の娘なんだし、親御さんも外泊についてはうるさくは言わないだろうけど、一応は聞いておかないと。
僕はベッドから這い出して、お風呂場の方へと向かって、ノックの必要性とかをあまり感じずにお風呂場のドアを開けた。
「きゃっ?!」
突然ドアが開いたからか、モブ子が変な声を上げるなり、僕の事を振り返るように見た。
僕だと分かるなり、恥じらうように頬を紅潮させて、何かをパッと後ろ手に隠した。
「モブ子、どうしたの?」
「い、いいじゃない。べ、別に……」
モブ子は僕から目をそらして、一歩後ずさりをした。
けれども、そこは狭い洗面台である。
僕がモブ子を追い詰めたようになってしまっていた。
「なら、話がしたいかな」
僕は脱衣所に入り、ドアを閉めようとすると、モブ子が身体を横にスライドさせるようにして動き、脱衣所から出ようとした。
「は、話すことなんてないわよ」
僕を見ようともせずに逃げようとしたので、その肩に手を添えようとした。
その手を振り払おうとしたのだろうけど、隠そうとしている物を見せまいとして、また手を後ろに持っていこうとするも、戻そうとしていた手が壁に当たってしまったのか、
「痛っ!」
小さな叫び声を上げた。
痛さのあまり隠そうとしていたものを手放してしまったのか、何かが脱衣所の床に落ちた。
なんだろう?
そう思って、落ちたものをじっと見つめると、それは白い布のようなものだった。
布?
いや、違う。
濡れぞうきんみたいな……下着……なのかな?
男物じゃなくて、女物の下着だよね?
ちょっと汚れているけれども……。
「み、見ないで!」
モブ子が慌ててそれを拾おうとするも、ここは脱衣所である。
結構狭い事もあって、かがもうとしてお尻が壁に当たり、その痛さからか身体を前に反らせてしまうと、体勢が崩れて転びそうになる。
前に倒れそうになるのを堪えようとしてふんばったのだけれども、ふんばりきれずに身体がふらついた。
僕が慌てて手を差し伸べようとするも、僕が嫌いだからなのかその手を振り払ってさらに体勢を崩して大股開きの状態でモブ子は尻餅をついた。
「……」
モブ子が着ていたワンピースが乱れに乱れていて、下半身が露わになってしまっていたのだけど、
「……はえてない?」
はえているべきものがそこにはなくて、あったのは割れ目の方だった。
「モブ子は男の娘で、身体は女の子? いやいや、男の娘には本来はえていないとか?」
なんだか混乱してきた。
「モブ子はキラっていう男の子で、いや、モブ子は女の子でキラは男の子?」
モブ子は僕の視線に気づいて慌てて衣服の乱れを直す。
恨みがましい視線を送ってきたけれども、悲鳴とかは一切上げないで、顔を真っ赤にするばかりだった。
「お兄様が……万次郎お兄様が私の事を『キラ』って言っていたの?」
恨み言とか、じろじろと見た事を責められるのかを思っていたら、モブ子はそんな事を確認するように訊ねてくる。
その瞳には哀愁が漂っていて、見ているだけで胸が締め付けられるようではあった。
「……うん。君はキラと瓜二つだって」
そう言うと、モブ子は悲しそうな目をするも、床に落とした下着を目にもとまらぬ速さで奪うように掴んで、パッと立ち上がり、
「私はあなたが大嫌い!」
脱衣所のドアを開けて、駆けだした。
どこに行くのかと思っていると、モブ子は玄関の方へと向かった。
カギを開けて、外へと出て行く音が早朝の静かな家中に響き渡る。
「……何か事情がありそうだね、これは」
モブ子がさっきまで何かやっていた洗面台の方から洗剤の匂いがしていた。
どうやら下着を洗っていたようだ。
なんで下着をこんな場所で、こんな時間に?
おねしょ?
それとも……?
僕はその場で腕を組み、モブ子を追うべきかどうか考え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます