許嫁の少女? いいえ、家出少女なのかも? 第一話 ver2.0

「万次郎は僕の弟になったけど、君は万次郎の妹なの?」


 張飛のような外見をしている男の妹がこんなにも綺麗な人だなんて嘘のような話だ。


 本当の妹なら、数年後は兄に似た豪傑系女子になってしまうのかもしれない。


「養子になったと聞いていましたけど、あなたがお兄様の兄になったというの?」


 女の子は僕の事を値踏みするような視線で全身をなめ回すように見て来る。


 僕ってそこまで不審に思われるような男だっけ?


 それとも、僕が万次郎の兄として相応しいか観察でもしているのかな?


「一応僕の家に養子として迎えられたんだけど、僕の方が誕生日が早いからって僕が兄になったんだ」


 僕がそう言うと、女の子は失礼な事に鼻で笑った。


「万次郎お兄様と比べると、こんなにも弱々しそうなのに、兄ですって? おかしい、ああ、おかしい」


「早く生まれた方が兄って言われるんだから仕方がないんだよ」


 見た目は綺麗だけど、性格が悪そうだ。


 美人さんには性格が悪い人が多いって聞いているけど、こういう人の事なのかな?


「あなたは万次郎お兄様に比べると、月とすっぽんですわ。桜とぺんぺん草みたいな超えられない壁があるくらいに差がありますね」


「……そうかな?」


 万次郎は確かに張飛っぽくて凄い。


 けれども、僕と比べると、そこまで凄いかと言うとそうでもない。


 両親が語ってくれた黄巾の族を壊滅させた話は確かに凄いし、両親を助けてくれて感謝の気持ちでいっぱいだ。


 僕だって、それくらいの事は過去に何度もやった事があるんだ。


 例えば、暴力団の抗争が起こっているところに出くわしてしまった事があって、喧嘩両成敗とばかりに合計二百人あまりを超能力で静かにさせたことがあったりしたし、墜落しそうになっている航空機を超能力で無事に着陸させたこともあったりと枚挙に暇が無い。


 そんなところだから、万次郎よりかは活躍していると思うし、劣っているとは思えない。


 でも、大概は『奇跡』だと片付けられていて、僕の活躍はないものとして扱われている事が多い。


「お兄様のように凜々しくはないですし、豪傑のような面構えではなく横山光輝三国志でやられている兵士のような顔ですし、張飛の義理の兄である劉備元徳のような颯爽さがありませんし」


「顔の事を言われても……確かに、僕はモブ顔だけどさ。外見だけでそう判断してもいいものかな?」


 横山光輝三国志でも、本宮ひろ志の天地を喰らうでも、他の三国志の漫画でも、なるほど、僕はやられ役の兵士のような顔をしている。


 だからといって、容姿の事でとやかく言われるいわれはない。


「口だけは達者のようね。でしたら、私を納得させる事ができたら、あなたを万次郎お兄様の兄と認めてもいいわね」


「というか、君に認めてもらう必要はないからいいよ。万次郎は僕が兄である事に納得しているから、君に同意を得なくてもいいって事なんだよ」


「そんな事を言っていいんですか?」


 女の子は意味ありげな笑みを浮かべて、僕の顔をのぞき込むようにして見始めた。


「万次郎お兄様とは将来を誓い合った仲なの。だから、そんな口を利いてもいいのかと言っているの」


「な、なんと!? 許嫁と?!」


 妹ではなくて許嫁だったとは。


 ああ見えて隅に置けないね、万次郎も。


 こんな綺麗な女の子が許嫁だなんて。


 でも、どんな関係なんだろう、この女の子と万次郎は。


「どうした、兄じゃ! 家に入らないでどうしたというのだ!」


 万次郎の豪快な声が響いてきた。


 牧田さんを送ってきたんだと思いながら、声がした方を見た。


 万次郎はいつになくご機嫌な様子だった。


「いや、ちょっと」


 そこで、万次郎の許嫁さんが来ている事を知らせようと口を開きかけたのだけど、


「兄じゃ、聞いてくれ! 俺、雪さんと付き合う事になったんじゃ! 教室でかばった時にハートを射貫かれたと雪さんが恥ずかしそうに言っていたんだ! しかも、雪さんは俺になら全てを捧げてもいいと抱きついてきてな! 俺は幸せ者じゃ! あんなに可愛い女子から告白された上、そこまで言われるだなんて! 男冥利に尽きるってもんじゃ! がははっ!! あの女子となら所帯を持ってもいいかもしれん! がはははっ!!」


 万次郎はうれし恥ずかしといった顔をしつつも、いつものように豪快な口調で語った。


 というか、万次郎と牧田雪さんがあんなちょっとした間で恋人同士になるだなんて……。


 あれ?


 待てよ?


 じゃあ、この綺麗な女の子は万次郎の許嫁なんじゃないんじゃ……。


 どういう事なのか訊こうかと思って、女の子を見ると、目が点になっているだけではなくて、口をあんぐりと開けて固まっていた。


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