第3話


今日初めての言葉を交わしたわたし達は、この後のことを考えた。


「それで、どうしますか先輩?」

「どうするって、決まってるよ。月氷と合流して、あいつを倒す!」


意気揚々とそう言い張る先輩を見て、楽観的だと思った。わたしは恐縮しながらら、言葉を遮る。


「でもですね先輩。できないどころもわからないのに、どうやって倒すんですか?」


わたしの宇宙コスモは、大体の位置を教えてくれるだけだから、今は何の意味もない。それなのに、先輩は楽しそうだ。


「あの、何を笑っているんですか?」

「そう?楽しんでるのかな、あたし?それは置いといて、ひかるちゃん。何か忘れてない?」

「何かって何ですか?もしかして、先輩の「感」のことですか?」

「いや違うけど。ほら、頼りになる人がいるじゃん、こういうとき」


その瞬間、先輩のスマホが鳴った。

日菜先輩はそれをすぐに見ると、ニコッと微笑んだ。鈍感なわたしには分からなかったけど、すぐにピンと来た。


「もしかして……」

「うん。さあ、行こうか!」


そう言って走り出した。


◇◇◇


イエローの銃弾と、崩れたコンクリートの残骸と、爆発した後。それだけが目の前の光景だった。


ひかるさん、来てくれたんですね。ありがとうございます。を」


本音が出た。

大切な家族が無事なことに感謝する。いつかのを護れた気がした。

わたしは前を向いて考えた。今、自分がすべきことを。何が役に立つのか、観察し思考する。


(敵は何処に行ったんでしょうか?私は敵の姿を見ていない。でも、私なら何処に逃げる。手負いなら、近くの隠れられそうなところに……いや、違う!)


絶対に違うと確信が持てた。

理由は特にない。けど、それだけは絶対だった。


「だったら、あそこしかないか……」


私はスマホを取り出し、すぐにメッセージを送った。当然、姉さんにだ。


そして私はその場を離れた。それと同時に、先ほどまでの銃弾を38口径に変えた。


◇◇◇


わたしと先輩は走っていた。

目的地は『私立桜木中学校』。わたしが今年の3月まで通っていた中学だ。どうやら、日菜先輩によるとそこにいるらしい。情報元は、月氷先輩だ。


数分前……


「もしかして……」

「うん。さあ、行こう!」


それから走りだし、1分。わたしは質問した。


「日菜先輩……聞いてもいいですか?」

「何?それに、あたしのことは「日菜」でいいよ」

「それで先輩。さっきのって?」

「うん。月氷からだよ」


やっぱりそうだった。

内容を聞く。


「月氷によると、『桜木中学』だって」

「『桜木中学』って、わたしの母校じゃないですか!でもなんで……」


わたしは不安になった。すると、励ますように肩を走りながら叩かれた。わたしは不安な顔を上げる。


「大丈夫だって。だって、私たちがいるんだよ?そんなしょんぼりした顔してちゃダメだよ。私たち強い。私たちならできるってそう思わないと」


励まされた。

わたしは変な苦笑いをして、


「そ、そうですよね!そうでした。わたしたちなら出来ます、絶対に!」

「そうそうそのいき。だからね、私も……本気出さなくっちゃ」



そう言って、銃弾を変えた。

38口径。比較的一般的で、火力も弾速も申し分なし。妙にファンタジックで、リアルなこのサイバー系の銃の特徴。あたしが最も得意な銃弾だ。


「さあ、行くよ!」

「はい。先輩」


私たちは闇夜を駆け抜ける。


◇◇◇


『私立桜木中学校』は、この町の西側にある。一足先にたどり着いたわたしは、校内に侵入し、そして屋上を目指していた。

屋上に行くには、3階から扉を開けなければならいが、当然を鍵はない。だから私は古い校舎の構造を利用した。ピッキングだ。

どうしようもなく悪いことをしている気分だが、私にはひかるさんみたいに空を飛べない。だったら有り余る知識を有効活用するだけだった。


「よし」


ドアノブに手をかけた。

そして、ゆっくりと扉を開き、一気に押し開けた。そこには、確かにいた。しかし、こっちには見向きもしない。表情はわからないが、無反応、無関心だと言うことは察しがついた。


(興味がないのか?それとも、何かを狙っているのか?わからない。わからないが、ここで仕留める)


引き金を引く。

リアルな振動が痛覚を刺激する。放たれた弾丸は、直進する軌道で、宵闇に吸い込まれた。


「えっ!」


私の放った弾丸は、何にも当たらずに消えて行った。それだけじゃない。そこに、あのカウボーイの姿はなかった。


ズドーン!


「うぁぁぁぁ!」


私は凄まじい激痛を受けた。

左腕を抑え、振り向くとそこには奴の姿があった。私に向けて銃口を突きつける。

左腕からは真っ赤な血が滴り落ちる。

その間も、私の左腕にはまだあるような激痛が神経を駆け抜け、骨は軋む。


「私の負け…か。人質と言うことですか。それとも」


私の左手から月輪が落ちる。

コトンと言う音とともに、次の弾丸が私に向けて放たれた。


◇◇◇


あたしひかるちゃんは、飛んでいた。星ちゃんの宇宙コスモの持つ「水星」の力で、空中に透明な足場があるからだ。

星ちゃんが先行して、私はそれを追う。そんな形だ。


「でも、やっぱり凄いですね日菜先輩は」

「どうして?」

「だって、わたしが「水星」を使うよりも早くに反応してるじゃないですか」


言われてみればそうだ。私、星ちゃんが飛んでいるからには、すでに踏み切って飛んでいた。だから、常に星ちゃんよりも高い機動力で移動していた。


「やっぱり、本当なんですね」

「何が?」

「日菜先輩は、特別な存在だってことですよ」

「そんなことないよ。私もみんなと同じで弱い存在。一人じゃ何もできないような人間だもん」

「それでも」

「そんなと言ってる暇があったら、前を向いて……ほらほら、前、前!」

「えっ?!あっ、はい!」


間一髪のところで、電柱に当たらずにすんだ。


「星ちゃん。しっかりして」

「は、はい……」

「落ち込まないで。ほら、前を向いて。楽しんで行こうよ!」

「わたしは、日菜先輩みたいに楽観的ではいられません。今頃月氷先輩も……」


私は落ち込んだ星ちゃんを励ました。


「大丈夫だよ。私だって心配。でも、私たちまでそんなんじゃ、出来ることも出来なくなっちゃう。だからさ、怖くても辛くてもいいから。とにかく明るく行こう!ね」

「えっと、全然ボルテージが上がりませんが……はい。わかりました」

「そのいきだよ。さあ、急ごう!」

「はい!」


私たちは夜の町を駆け抜ける。

それだけに、心火を燃やした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る