第3話 共演
カヤのデビュー作は一大センセーションをおこし、その後も次々とヒットを飛ばした。
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”人間の女優が魅せる圧倒的リアリティ!” -映画評論-
”アクトノイド時代の終焉か?” -ワールドエンタ-
”100年に一人の奇跡” -週間アクトレス-
”偽物で満足? 本物を見るまでは” -演劇マガジン-
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「なんでアクトノイドが偽物扱いされるのよ! アクトノイドがなかったら、容姿に恵まれない私は女優にはなれなかった。アクトノイドこそ、本当に演技力がある人間が女優になれる、本物なのよ」
「ミカさんは本物ですよ」
鬱憤のこもった声で当たり散らすように喚くミカを、リサが慰める。
「でも、あの子は、私以上の演技力と、持って生まれた美しい容姿を持ってる。かなわないわ……」
カヤの主演が増えるごとに、ミカの主演が減っていった。そして、再び二人が共演する時が来た。
「ミカさんと再び共演できて光栄です」
「今回も、生身で演技するの? かなり危険なシーンがあるけど」
「はい、全力で演じます」
「そう、きっと最高傑作になるわね。私もあなたの引き立て役として最高の演技をするわ」
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「監督、お願いがあります。今回は私もアクトノイドを使わずに、生身で演技します」
「おいおい、突然そんな事言われても困るよ」
ミカの提案に監督が戸惑う。
「私は主役じゃないし、素顔で演じても問題ないと思います。カヤの演技に合わせるには、どうしても必要なんです」
「わかった。プロデューサーと相談してみるよ」
そう、どうしても生身の体で演技することが必要なのだ。
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撮影は順調に進み、最後のクライマックシーンを残すのみとなった。
「クライマックスの銃撃戦からカースタントまでは長回しでいく。本番は一発勝負だから気合い入れていけ」
監督の激が飛ぶ。
カヤ演じるヒロイン「沙織」が、ミカ演じる敵役「夕子」に銃で追い詰められ、あわや間一髪というところで、「亮太」の運転する走行中の車に飛び乗って逃げるという、一歩間違えば大怪我につながる危険なシーンだ。
「アクション!」
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ミカがカヤに銃を向ける。
ミカ「沙織、あなたは私の全てを奪った。あなたが存在する限り、私の居場所がなくなるの」
カヤ「夕子、あなたは私の憧れだった。本当のあなたを取り戻して下さい」
ミカ「あなたには、私の気持ちはわからないわ。この銃は脅しじゃない、本物よ」
そう、この銃は本当に本物なのだ。真実に気付いたカヤの表情に浮かぶ表情は恐怖を超えた恐怖。まさに本物の演技だ。
ミカ「5秒だけ逃げる時間をあげる。5…、4…、」
ミカに背を向け、カヤが必死の形相で走り出す。
ミカ「3…、2…、1…、」
ゼロの声と同時に銃声が轟き、カヤの体をかすめる。初めて感じる痛みと銃弾の熱さに、うめき声をあげるカヤ。
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「今日の演技は二人共、神がかっているな」
別室のモニタールームにいるプロデューサーがつぶやく。
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ミカ「一発で殺したんじゃつまらないわね。私の居場所を奪った罰として、苦しみながら死になさい!」
路地へと向かうカヤの足を狙い2発目の銃弾を撃ち、狙ったところに命中させる。正確な射撃をするには生身の体が必要だ。アクトノイドではこうはいかない。
カヤ「うっ」
足を引き釣りながらも助けを求め、路地へと向かう向かうカヤ。タイミングはばっちりだ。そう、リハーサルよりもほんの少しだけ遅れている。カヤが路地へと飛び出した瞬間、「亮太」の運転する車が飛び出して激突した。
骨の砕ける嫌な音が響く。まるで映画の一シーンのようにカヤの体が宙に舞い、ミカの眼の前で、美しく散った。
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眼の前で起きた惨劇に皆が呆然とする中、横たわるカヤの体にミカが近づき、かすかに息のあるカヤに語りかけた。
「これぞ本物のリアリティね。あなたが目指したものを作り上げることができて、よかったじゃない」
「なんで、こんなことを……」
かすかな声で尋ねるカヤにミカが答える。
「昔は、どんなに演技力があっても、生まれつき容姿に恵まれた人間しか女優になれなかった。アクトノイドのおかげで、私は女優になれたのよ。それをあなたは私からうばった。アクトノイドが偽物と言うなら、本物の体で、本物の死を表現すればいい」
「ミカさんは本物ですよ」
うつ伏せになったカヤがミカに顔を向けると、ミカの美しい顔が剥がれ、そこには見知らぬ顔があった。
「あなたのその顔はいったい?」
「子供の頃、近くの高校の文化祭でミカさんの演技を観ました。その時のミカさんは、すっごく綺麗で、輝いていて、ひと目で心を奪われて、そして、ミカさんみたいになりたくて、なりたくて、必死に女優の道を目指しました。でも、何度、オーディション受けても、こんな顔じゃだめだったんです」
「あなたも……」
「ミカさんが、アクトノイド・パフォーマーになったのを観て、私も最初は、アクトノイド・パフォーマーを目指そうと思いました。でも、なんで、みんな、本物のミカさんを観ないんだろう、本当のミカさんはアクトノイドなんかよりもずっとすごいのにって思ったんです。だから、私は生身の体の素晴らしさをみんなにも、そして何よりもミカさん自身に知ってもらいたくて、仮面をかぶって演技をしていたんです」
「そんな……」
「最後にミカさんと共演できて幸せでした」
カヤの目から涙がこぼれる。
「あなたの目、とても綺麗よ」
微笑んだカヤは目をつぶり、その目は二度と開くことはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カヤの事件は、誤って実弾が装填された銃が使われたことによる事故として処理され、この事件をきっかけに、商業作品での生身の俳優による演技は禁止された。
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「面白かったー!」「本当のお姫様みたい」
終演後、子どもたちの嬌声がいたるところで飛び交う。
「ミカさん、お疲れ様でした」
マネージャーのリサがドリンクを差し出す。アクトノイド・パフォーマーを引退後、ミカは学校をめぐって子どもたちの間で公演をするようになった。
「今は映画もテレビも偽物ばっかりだからね。子どもたちにはちゃんと本物を見せないと」
― 終 ―
アクトノイド ープロトタイプー 明弓ヒロ(AKARI hiro) @hiro1969
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