第104話 急展開
マルスは身支度を整えると、そのままラウンジがある城の方へ赴いた。そこではすでに、窓際に座って真っ暗で見えない外を眺めるグイファスの姿があった。
「グイファス」
声を掛けると、彼はのろのろとマルスの方を向いた。魂が抜けでもしたのか、覇気のない顔をしている。
「マルス、早かったな」
グイファスは壁に掛けてあった時計をちらりと見て言った。時刻は六時十五分を示していた。
「君こそ、待ち合わせの時間には四十五分も早いみたいだけど」
「……何だか何もする気が起きなくて」
グイファスは頬杖をついて、再び窓の外を眺めた。白い雪がぱらぱらと降り始め、窓際に近づいた雪だけが、室内の光の照らされ、白く浮き上がっていた。
マルスはグイファスの隣の席に座った。
「それは重傷だな。メレンケリと何かあったか?」
単刀直入に聞かれ、グイファスは驚いてマルスを凝視した。
「……なんで……ローシェにでも聞いたのか?」
「ろーしぇ?」
知らない名前を出され、マルスは顔をしかめた。
「ああ、俺の友達だよ」
「別に会っていないが、今の君の様子を見れば、事情を知っている者ならメレンケリと何かあったとしか思えないよ」
「……」
グイファスは少しの沈黙ののち、マルスに言った。
「君は知っていたのか?俺の好きな人のこと」
マルスは笑った。
「傍にいれば気が付くさ」
「そうか」
グイファスは目をつむり、力なく笑った。
「いつから?」
「ジルコ王国にいた時、北の山へフェルさんに会いに行ったときかな」
思ってもみなかったことを言われ、グイファスはきょとんとする。
「そんな前から、そう見えていたのか?」
「違った?」
尋ねられて、グイファスは自分の気持ちについて考える。
「あの時は、彼女のことを好きだとは認識してはいなかった。ただ、一生懸命に頑張っている彼女を守ってあげたいとは思った」
「そうか」
「ただ……、それだけだったんだけどな……」
グイファスの金色の瞳が寂し気に光る。
「なあ、何があったんだ?俺にできることはないか?」
「何もない。俺もどうしてそうなったのか分からないんだから」
「そうなったのかって?」
グイファスは長く息を吐いてから、何と言われたのかを答えた。
「会いたくない、と言われた」
「……は?」
マルスは耳を疑った。
「だから、会いたくないと言われたんだ」
「どうして」
「だから、それは俺にも分からないんだよ……」
「でも、何故そんなこと急に……。メレンケリがそう言ったのか?」
「いいや。直接言われたわけじゃない。今朝彼女の部屋の前に行ったとき、彼女の部屋から出てきた使用人に言われたんだ。言伝……っていうのかな。会いたくないって言ってますって」
「……」
メレンケリがそんなことを言うはずがない。そう思ったときだった。
廊下から誰かが走ってくる音が聞こえた。踵のあるブーツの高らかな音である。その人はラウンジを通り過ぎようとしたが、グイファスの姿を見つけるなり急停止して叫んだ。
「グイファス、大変だ!メレンケリさんが!」
狩人の恰好をしたローシェの声に、グイファスとマルスは勢いよく立ち上がった。
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