第70話 案内された部屋

「こちらになります。どの部屋も間取りは同じでございます」


 使用人が丁寧に説明をするのを聞いて、リックス少将は部下たちに指示をした。

「二人一組での生活になる。とりあえず、二人一組を作ってくれ。だが、それは一時的なもので、二日に一度メンバーを変えるつもりだから、そのつもりで頼む」

「分かりました」


 軍人たちは手慣れたもので、すぐに二人一組のペアとなる。最初の二日間は、少将が一人部屋となるようだった。そしてメレンケリ以外の軍人たちはそれぞれの部屋の前で待っていた使用人に導かれ、部屋の中に案内される。

 その様子を眺めながら、自分だけ一人部屋を割り当てられると言われたため、どうしたものかとメレンケリがうろうろしていると、女性の使用人が彼女に声を掛けた。

「アージェ様ですよね?」

「え……、ええ」

 メレンケリが戸惑いながら頷くと、使用人はにこりと微笑んだ。

「アージェ様のお部屋は、こちらになります」

 そう言われて使用人についていくと、2階の一番東の部屋に案内される。皆が東西に延びた廊下の西側の部屋に案内されたのに対し、メレンケリはその反対側の一番端っこだった。


「さあ、どうぞお入りくださいませ」


 使用人がドアを開ける。すると、一人で使うには十分すぎるほど大きい部屋が彼女を迎い入れた。

「……」

 言葉を失うメレンケリに、使用人は彼女の手から荷物を取り、ソファの方へ運んでいく。

「アージェ様のお部屋には、五つ部屋がついております」

「五つ!?」

「はい。この政務室の部屋と、ベッドルーム、それからお着替えをする部屋に、プライベートルームが二部屋でございます」

「そんなに沢山必要ないですけど……」


 だが、メレンケリの言葉をよそに使用人がさらに説明を付け加える。

「それから洗面所、トイレ、バスルーム、簡易キッチンも完備されております。簡易キッチンだけ、プライベートルームに設置してありますので、使用する際は火元に十分お気を付けくださいませ。一応この部屋で、生活の全てが完結されるようになっておりますが、食事やお飲み物は私共にお命じ下さればご用意いたします。また、分からないことなどがありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

 そう言って使用人は、メレンケリに一礼をして部屋を去って行ってしまった。

「……」


 メレンケリはあまりにも驚き、脱力してソファに座った。そして自分にあてがわれた部屋を眺める。


(凝った装飾に、高そうな家具。それに生けたばかりの花まで……)


 するとその時、静かな広い部屋に、ドアを叩く音が鳴り響く。

 コン、コン、コン。

「はい?」

 メレンケリはドアの方へ向かうと、そこにはグイファスが立っていた。

「グイファス……」

「疲れているところ悪いんだけど、これから三十分後に談話室に集まってほしいって、リックス少将が。大蛇の件で調査をするからその段取りを話し合うって言っていたよ」

「そう。分かったわ」

 そう言ってメレンケリは部屋を振り返ったが、大きくため息をついた。


「ねえ、グイファス。この部屋、何が何でも大きすぎだと思うのだけれど」

 グイファスはメレンケリの部屋を眺め、首を傾げる。

「そう?」

「大きいわよ。それともあなたは、もっといい部屋に住んでいるとでも?」

「この部屋よりも大きい部屋ではないけど、同じくらいの部屋に住んでいるよ」

 メレンケリは再びため息をついた。


「あなたはこの国の騎士だったわね。騎士は待遇がいいのね」

「待遇がいいわけではないよ。俺が少しだけ特別なだけだ」

「特別?」

 メレンケリが首を傾げると、グイファスが悩んだ末にメレンケリの部屋の中を指さした。

「少し話がしたい。中に入っても?」

「え、ええ……」

 メレンケリが目を泳がせながら答えると、グイファスは慌てて付け加えた。

「ああ、大丈夫。変なことはしないって約束するから」

 その言葉にメレンケリは目を瞬かせると、肩の力を抜いて笑った。


「……そんなこと約束しなくても、あなたはそんなことしないことくらい分かっているわ」

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