第71話 特別な理由

「……特別の理由、他の人には聞かれたくないのね?」

 メレンケリは部屋に戻ると、ソファに座った。

「そうだね」

 グイファスは笑って頷く。


 立ちながら話そうとする彼に、メレンケリは言った。

「立っていながら話されると落ち着かないわ。座ったらどうかしら?」

「君が嫌じゃなければ」

「どうして嫌って思うのよ。寧ろ、あなたに立っていられると見上げなくてはいけなくて、首が痛くなるわ」

 微笑んでいるメレンケリにそう言われ、グイファスは肩をすくめた。

「それもそうだね」


 グイファスはメレンケリの向かいのソファに座り、彼女の向かい合わせになった。メレンケリはできるだけ平常心を装って、彼の話を聞く体勢になる。


「特別な理由だけど、君はエランジェ国王に会って何か思うことはなかった?」

 グイファスに尋ねられ、メレンケリは「ああ、やはりそうか」と心の中で思った。それと同時に、彼女の中にあるグイファスへの想いが遠のいていくような気がした。

「遠回しな言い方ね。どこかあなたに似ていると思ったけれど、あなたのお父親か伯父様ってところかしら?」

 至って平静なふりをしてメレンケリは答える。するとグイファスは驚いたように、金色の瞳を大きく見開いた。


「そんなに似ているかな?誰にも言われたことがないんだけれど」

「皆、思っていても言わないんじゃないかしら。違う?」

「どうだろう。それにしても、どこが似ているって思ったの?」

「肌の色と瞳の色。そして、私に対する凛とした態度」

「そんなに似ているかな?」

「ええ。似ていると思うわ」

「……」

「それで?結局どちらなの?」

「何が?」

「この国の王様は、あなたのお父様なのか伯父様なのかって話」

 するとグイファスは肩の力を抜くように、ふう、と息を吐くと答えた。

「伯父だよ。私の父の兄上だ。だけど、私の父親の代わりでもある」

 グイファスの言い方に、彼の父親はいないということなのだろうか、と思い眉をひそめた。

「どういう……こと?」

 メレンケリが何かを心配するような言い方に、グイファスは自分が言った言葉で誤解を生じさせてしまったことに気が付いたため、それを訂正した。

「ああ、本当の父親は健在だよ」

 その言葉に、メレンケリはほっと安堵する。

「だけど、騎士として城から離れているんだ。今は、ジルコ王国とは別の国の国境の方へ出ていっている」

 父親といい、グイファスといい、国王の親族であるにも関わらず、彼らは騎士としてこの国を守る剣であり盾である。だが、それがメレンケリにとって疑問だった。普通王族ならば、城の奥に住み、守られている存在だと思っているからだ。

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