第68話 力を見せる

「試しに、ですか?」

「ああ。ぜひともその力を見せてもらいたい」

「……」


 国王に会うまではそういうことを言われるような気がしていた。だが実際に言われると、まるで自分が持っている力が本物であるかどうかを試されているような感覚になる。


(私の力は見世物でもなければ、力を試すためのものでもないのに……)


「メレンケリ・アージェ」

 メレンケリが黙っていると、リックス少将が声を掛ける。

「どうかしたか?」

「……いえ」

 メレンケリは軽く首を横に振り、憂いを払う。


「何か石になってもいいものを渡して下さい。それを石に致します」


 その言葉に王は頷くと、傍にいた秘書に目配せをし、石になってもいいものを用意させる。そして秘書が一度はけてから再びメレンケリの元に現れた時、その手に持っていたのは、花瓶に入った花だった。


「これならばどうでしょうか?」

 秘書がメレンケリに花を差し出す。

「どうだろう?」

 尋ねるエランジェ国王に、メレンケリは頷いた。

「ええ、構いません」

「では、見せてもらおう」


 そう言われると、メレンケリは秘書が持っていた花瓶から花を一本左手に取る。ピンク色をした、可愛らしい花だ。彼女はくるくると手の中で花を弄ぶと、心を決めたようにその手をぴたりと止める。


「皆さん、私から離れてもらっていいですか。万が一あなた方に触れてしまい、誤って石にしてしまうといけませんので」

 メレンケリがそう言うと、彼女の周りにいた人間が一歩、二歩下がり、彼女から離れる。

 それを見て確認すると、メレンケリは自分の右手に嵌めている手袋を取り、ゆっくりと花の花弁に触れた。

 すると、乾いた音が部屋に響き始める。


 ピキ、ピキ、パキッ……。


 花弁から順番に花弁、茎、葉っぱへとメレンケリの力が及んでいき、柔らかな花は硬質な石へと変化を遂げた。


「……」

 その花の様子に大臣をはじめ、秘書やジルコ王国の軍人たちが息を飲む。花が石になるなど、考えもしなかったからであろう。ジルコ王国の軍人も、メレンケリの力で実際に石になっていく様子を見たことはなかった。彼らは石になった囚人たちを見てきてはいたが、どうやって石になっていくか、その過程は見たことがなかったのである。


 その中で、エランジェ国王だけが冷静な様子で眺めていた。

 メレンケリは花を石にし終えると、すぐに右手に手袋をはめる。

「終わりました」

「それがそなたの力か?」

 王の問いに、メレンケリは頷く。

「はい。そうです」

 すると王は、彼女が持っていた石の花に触れようとする。だが、その手を止めて、メレンケリに尋ねた。

「その花に触れてもよいか?」

「ええ、どうぞ」


 メレンケリが石になった花を、エランジェ王に渡す。彼はそれをそっと手に取ると、しみじみと見つめる。色を持った花は、その辺の石と同様、灰色をしていた。


「灰色の花、か。これが、我が国を救う力……」

 そしてエランジェ国王は、メレンケリに微笑んだ。

「素晴らしい力だ。是非、この力を我が国の為に使ってくれ」


 王の言葉に、メレンケリは目を見開いた。彼はメレンケリの力を怯えることはせず、建設的に使う方へ期待を寄せていた。

「……はい!」


 その言葉は、メレンケリにとって自分の力をようやく人の為に使うことができると思った瞬間だった。

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